COVID-19(コロナウイルス疾患-19): このウイルスの物質としての特性

1.新型コロナウイルスの姿・外観

混乱を招かないように、ここで名称について多少説明を加えることにする。前項「薄気味悪いウイルス」で紹介したように、2019年も終わり近くになり中国の武漢で発見された恐ろしい疫病が、未知のコロナウイルスによることが判明して、「新型コロナウイルス」によって発症する疫病ということになった。様々なコロナウイルスが存在しているが、このウイルスの電顕像は、王冠・コロナのような構造で外観は同じに見えても実質は異なる「新しい型」のコロナウイルスであるので、「新型」と臨時の名称になったのである。

   2002年から2003年にかけて中国で流行したSARS・重症急性呼吸器症候群に症状が似ており、また原因病原体であるSARSコロナウイルス(SARS-CoV)にこのウイルスは酷似しているとしてSARS-CoV-2と名付けられた。しかし、情報が集積するに従って、症状はSARSコロナウイルスとは、相当異なっていることが判明してきている。

新型コロナウイルスが"コロナ"ウイルスと名付けられたのは、電子顕微鏡写真で分かるように、コロナ(王冠)のように見える構造をしているからである。

(注:テレビなどでお馴染みになっている次に示した画像が鮮やかな色をしているのは、人為的に彩色されているためである。電顕写真に色があるわけではない)

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2.様々なコロナウイルス

 このところ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とそれによって生じている感染症(COVID-19)の両方が、「コロナ」という呼称になってしまっているようである。しかし、前者はウイルス・物質であり、後者は感染症・病気である。"コロナウイルス"は前述したように、電子顕微鏡で王冠のように見えるウイルス全般を指しており、様々なコロナウイルスが存在している。

 コロナウイルスは、ゲノムとしてリボ核酸 (RNA) をもつ一本鎖RNAウイルスで、哺乳類や鳥類に病気を引き起こすウイルスのグループの1つであり、これらウイルスにより引き起こされる症状は、生物の種類によって異なり、鶏の場合は上気道疾患を引き起こし、牛や豚の場合は下痢を引き起こす。

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ヒトに感染するコロナウイルスは、風邪症候群の4種類と動物から感染する重症肺炎ウイルス2種類 (SARS-CoV, MERS-CoV) が知られていて、更に2019年から世界に拡がっているSARS-CoV-2を加えた計7種類である。風邪症候群の病原体ウイルスの15%がコロナウイルスであり、これらはヒトコロナウイルス229E、NL63、HKU1及び OC43と名付けられている。これらの名前はこの小論に関しては重要ではなく、ただコロナウイルスとは、病原性があるかどうか、その病原性の強弱などは一切関係が無く、電顕での形状を現すだけのことであるという意味が正しく理解される一助とするために敢えて書き加えた。

インフルエンザウイルス

 インフルエンザウイルスは、分類学的に「コロナウイルス科」に入れられていないので、分類学的にはそのような名称にはなっていない。しかし、電鍵写真で明らかなように、コロナ状を示しており、又外膜の分析なども、下の3.の模式図に示すような性状を持っているので、形状はコロナウイルスである。

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一方、重症肺炎ウイルスに分類された2種類、重症急性呼吸器症候群(SARSサーズ)および中東呼吸器症候群(MERSマーズ)は、いずれも激しい肺炎症状を示し高い致死率を持つこと、また現在世界を脅かしている新型コロナウイルス感染症も当初厳しい肺炎症状を示すことに注意が向けられた。そのために重症急性呼吸器症候群-2(SARS-CoV-2、サーズ2)という名称になった。しかし、1年経って判明してきたことは、このウイルスが攻撃を加える組織、臓器は呼吸器だけではなく、全身の100種類以上の組織細胞に入り、それら組織に直接損傷をもたらすことが数々報告されるようになった。したがって、重症急性呼吸器症候群-2という名称はあまり正しくなくて、COVID-19(コロナウイルス疾患-19)という名が、親しみにくいけれど正しいのかも知れない。

3.コロナウイルスの外観および内部の模式図

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コロナウイルスの模式図として、割にしばしば見ることがあるのは左側の図だろう。模式図というのは、顕微鏡の画像(大きいものは光学顕微鏡、ウイルスのように小さいものは電子顕微鏡)と、その物質の示す物理的、化学的、生物学的特性から理解し易く模式図にして表現したものである。右側の図は、外部の構造をさらに詳細に描き、また断面図によって外部、内部の構造についても表現している。

コロナウイルスは外観がコロナ(太陽の光冠)に似ていて、らせん対称性のヌクレオカプシドをもつエンベロープウイルスで、多形性で大きさは直径80-220nm程度である。ウイルス粒子表面のエンベロープ(膜構造)に、花弁状の長いスパイク蛋白の突起(S蛋白、約 20 nm)を持ち、ゲノムサイズは約26〜32キロベース (kb) で、既知のRNAウイルスでは最大級である。

注:nm(ナノメートル)は長さの国際単位で10-9メートル、1 nm = 0.001 µm = 0.000001 mm
キロベース(kb)は、塩基対の数で「キロ」は103、「1キロベース」は1000塩基対

エンベロープから外側に突き出しているタンパクの突起は、それぞれ様々な役割を果たしているが、一つの重要な役割は細胞の表面にある受容体に結合して侵入するために必要な突起である。生物の細胞膜には様々なものを受け容れるための特異性を持った千差万別の受容体が備えられている。その中の一種類の受容体とウイルスが結合することが出来ると、細胞の内側に侵入することが可能になるのである。

内側には、その特性を備えている遺伝物質であるRNAが存在している。特性を遺伝するRNA(DNAを持っているウイルスもある)を持っているために生物と見なされることもあるが、ウイルスはそれ自身で複製することは出来ない。すなわち、遺伝物質を持っていても、それを働かせるための様々な道具・機器を備えていないために、遺伝物質としての性能を発揮できない、動けないということである。それは、エネルギー(ATP)を補給できない、何かに依存しなければ何も出来ないということでもある。重要な自己増殖機能を持っていないのである。

一方、細菌は自己増殖を行う生物であり、生息条件が整っておれば、ATPを自身で補給できて増殖し、生き続けることが出来る生物特有の性質を持っている。繰り返して言及するとウイルスと細菌との決定的な相違点は、ウイルスは遺伝物質をただの物質として持っているだけ、すなわち、動的な物質ではないので機能できず、したがって増殖できないという点である。何かの生物細胞の中に入り込み、その細胞の機能の中に潜り込んで増えるための材料を提供して増やしてもらうしか方策が無い、何かの生物に完全に依存しなければ増殖できないということである。

細胞の中に寄生しないで何かの物の表面に付着、あるいは空中や水中に漂っている場合には、長時間感染力を持ち続けることは出来ず壊れてしまう。この感染力の持続時間については、次の論文の予防の記述の項で少し精しく紹介するが、いずれにしても感染は人や動物などを通して起こることを覚えておくべきである。三蜜を避けるようにと声高に言われているのは、そのためである。

消毒に関しても、石けんでしっかり洗うことが一番であるのは、ウイルスの構造が関係している。又、70%アルコールでしっかりこすって洗うと破壊することが出来るが、石けんで洗った後に消毒するのが良い。又、エンベロープを持たないノロウイルスなどは、アルコールでは消毒されない。

百年前にスペインインフルエンザ(スペイン風邪)でおののいた人類は、百年の科学の進歩にもかかわらず、今又おののいている。このウイルス騒動で2020年も終わろうとしているが、被害は広がる一方である。2020年⒓月23日、日本の累計感染者数は21万人に達しようとしており、死者は3千人を超えた。医療崩壊が各地で起こりかけており、医療従事者は疲弊しきっている。

自分はまだ感染していない、感染しても重症化しない、インフルエンザみたいなものだと斜に構えている愚か者は、万一感染した場合には、周囲の人々にこの恐ろしいウイルスをまき散らすことになるのである。又、感染しないとしても、ウイルス以外に体調を崩したり、けがをしたりして病院に駆けつけようとしても、医者も看護師も、病院も対応できない状態になりかかっているのである。

現在、世界の感染者数は8千万人に達しようとしており、死者は170万人を突破し、一日に一万人以上が死んでいっていると、身の毛もよだつデーターをWHOが発表している。

人間は、神に与えられた頭脳と科学を駆使して、襲って来るウイルスについて学び、それから逃れる方法を見つけ出そうと知恵を絞っている。そして、物質として、又武器としてどのように私たちを襲ってくるのかなどを学びつつある。かなり判明してきたが、まだまだ明確になっていない面が山とある。

数種類のワクチンが開発されたが、それがこの感染を防ぐことが出来ますようにと、多くの人々が祈り、又期待を寄せている年の瀬である。

このウイルスについて今分かっている物質的側面について、この小論で少し学んだ。そして、終わりに、創造主なる神は、信じる者には常に最善をしてくださる方であるという絶対的信頼を以て祈りをささげる。

神を愛する人々、すなわち、神のご計画に従って召された人々のためには、神がすべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています。(ローマ書 8章28節)

私は【主】に申し上げよう。「わが避け所、わがとりで、私の信頼するわが神」と。主は狩人のわなから、恐ろしい疫病から、あなたを救い出されるからである。主は、ご自分の羽で、あなたをおおわれる。あなたは、その翼の下に身を避ける。主の真実は、大盾であり、とりでである。(詩篇91篇2節~4節)