SARS-CoV2:感染予防策・手洗い、そして三密を避ける

 この分野の専門家ではない一般の人々が、まるで専門家のようにウイルスに関する情報に耳を傾け、考え、そして話すことは今までなかっただろうと思う。このウイルスはどんなものか、どのように拡がっていくのか、感染しているのをどのように検査するか、PCR検査を社会はどのように扱うべきか、抗原検査とは、抗体検査とは、そしてワクチン、それらが必要かどうか等々、喧々諤々議論を繰り広げる事態になっている。

感染予防策について考える前に、感染経路及びPCRなど検査法について簡単に触れておくことにする。感染予防策のうち一番簡単に見えることが、効率よく実行するのが一番難しいことかも知れない。

1.感染経路及び各種検査

(1)感染経路

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 「このウイルスの物質としての特性」の稿で説明したように、ウイルスは細胞を離れると遅かれ早かれ壊れてしまう。したがって、何かの細胞を通して拡がっていくので、感染症の大流行では、原則として人から人へ感染して拡がっていくことになる。ウイルスは細胞の中で増え、宿主細胞を壊して細胞の外へ出て、そして人の体液(血液、唾液、鼻水、汗、尿、便など)を介して最後に、主として咳、くしゃみ、会話などで発生する呼吸飛沫として体外に出て、様々な方法で人に感染する。

 新型コロナウイルスの主要な感染経路は飛沫感染と考えられているが、空気中に撒き散らされたウイルスは、感染力を持ったまま約3時間も空気中に漂っているようである。そのため、この頃は空気感染するらしいと考えられるようになっている。それ以外には、頻度は高く無いが接触感染や経口感染、目の粘膜に侵入することによる感染も無視は出来ない。

 (2)PCR検査、抗原検査、抗体検査

 この1年ほどの間、最も頻度高く使われるようになった言葉の一つはPCRだろう。それがどういう内容か、どういう意味か知らなくても、新型コロナウイルスに感染しているかどうかを検査する有効な方法であることは誰でも知っており、それさえ知っておればひとまず充分だということかも知れない。

 ただ、少し危険だなと感じるのは、「PCR陰性」の証明書がお墨付きだと信じる人々が大勢いること。「PCR陰性」という結果は、サンプル(唾液でも鼻汁でも)を採取したその時点で、ウイルスが相当数いなかったという証拠でしかない。サンプル採取した1分後に感染者と接触してウイルスをうつされたら、一日後、遅くとも数日後には感染者になる。もしかしたら重症患者にさえなる可能性はある。

 PCRとは「ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(ポリメラーゼ連鎖反応)」の略であり、ウイルスが遺伝情報として持っているDNAまたはRNAの微量の断片を増幅して検出する方法である。新型コロナウイルスはRNAを持っており、PCR検査は新型コロナウイルスを検出するのに最も精度が高いとされている。

 抗原検査は、抗体を使ってウイルスが存在しているかどうかを調べる方法で、PCRより感度が低い。ウイルスの存在を調べるということで、検査の持つ意味はPCRと同じである。検査が正しく行われれば、PCRと同様、検査をしたその時点で感染しているかいないかという検査であって、翌日以降にウイルスが体内に存在していないということを示しているのではない。

 抗体検査とは、かつて感染したかどうかを検査するものであり、抗体が存在していればかつて感染したことを証明するものであるが、抗体が検出されない場合には、感染したことがあるかどうかについては不明である。又、その時点でウイルスに感染していても、この検査ではそれは分からない。

 

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2.感染予防

(1)三密を避ける

 ウイルスは人から人へ感染するので、人に近づかなければ感染する危険性は非常に小さい。密閉した空間、室内に大勢の人が集まり互いに近い距離で接すると、人に感染させたり、人から感染したりする危険度が増大する。

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 近寄って顔と顔を向き合って話をしたり食事をしたりすると、図にあるように互いに飛沫を浴びせ合うので、どちらかがウイルス感染している場合は他方に感染させてしまうことになる。大声で話したり歌を歌ったりするのは、顔と顔を向かい合わせなくても同室にいるだけで非常に危険である。

 4メートルくらい離れていると大きな飛沫は空気中に留まらないで下に落ちるが、小さな飛沫はかなり遠くまで飛ぶ。

 高性能コンピューター富岳を用いて飛沫シミュレーションを行った様々な画像がネットに出ているので、検索してみることを薦める。

 室内にいるときには、適切に換気を行う必要がある。部屋の対角線上の窓をあけて、空気の入口と出口を作るように工夫する。寒い季節は換気をするのは大変ではあるが、何とか工夫をして感染予防を図る。但し、室内に大勢人がいるときは、どのように換気をするべきか、様々な指針が出ているので参考にすると良いが、そもそも室内が混み合っていること自体が危険である。

 (2)手洗いと消毒

 日本人は比較的「きれい好き」なので、いつも通りにしていたらしっかり洗えていると錯覚に陥っているかも知れない。しかし、様々な細菌やウイルスが無数に付着している手からきれいに洗い落とすことは決して容易ではない。普通の環境下では、手に付着している細菌やウイルスが有害であることはないので、神経質に手を洗わなくても支障はない。しかし、今は事情が違っている。外科医ほどではなくても、洗剤を付けてびっくりするほどしっかり洗うようにと勧められている。

 写真のように、洗剤をしっかり泡立てて手のひらの中で指先をグルグルと回し、こすりつけるようにして洗い、1本ずつ10本全部、指の間も意識してゴシゴシとこすって洗い、手の甲、手の平も念を入れて洗う。その後水でしっかり濯いで洗い流す。相当きれい好きでも、普段このような洗い方をする人は少ないだろう。しかし、今はそれを行う必要があるのである。

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 石鹸で洗うことを特に推奨されている理由は、図に示しているようにコロナウイルスの構造が関わっている。エンベロープ(タンパク質と脂質で出来ている膜)がウイルスの外側を覆っているからである。脂質である石鹸の分子が膜の脂質にくっついて引きはがして膜を壊すので、ウイルスは皮膚から離れ易くなるのである。服の汚れを落とす場合と同様に反応に時間が掛かるので、しっかりこすって洗う。

 消毒薬は、間違った情報が流布しているせいもあり非常に誤解されている。このコロナウイルスなど外側をエンベロープ(膜)で包まれているウイルスの場合は、70%アルコールが最も良い。手の平にたっぷり受けて、指先を浸して消毒し、その後両手の平と手の甲をしっかりこすり、指の間にもしっかり擦り込んで消毒する。「消毒したよ」と自分に申し訳・納得をするために、消毒薬を1, 2滴垂らして両手をちょっと揉み合わすだけでは全く役に立たない。アルコールを節約しようなどと「みみっちい」ことを考えないで、たっぷり使って、しっかり擦り込まないと消毒効果は得られない。

注:アルコールは濃い方が良いと錯覚している人もいるが、約70%が消毒効果は最も高い。アルコール濃度がこれより高いとやや効果は小さくなり、また低いとやはり効果は小さい。昔、流行った下痢を起こすノロウイルスはエンベロープを持たないので、アルコールでは消毒できない。 

 次亜塩素酸ナトリウム (キッチンブリーチは約5%溶液)は、台所で調理用具等の除菌・除臭・漂白に普通に使われている強力な消毒剤であるが、作用が強くて本当は危険な消毒剤であるので、十分注意して使用する必要がある。このキッチンブリーチをさらに100倍に希釈、すなわち0.05%溶液にして、換気しながら拭いて使う。その後水拭きする。手指の消毒には使えない。

 次亜塩素酸水は、名前が似ているので間違う人もいるかも知れないが全く別のものであり、消毒効果は小さい。ドアノブなど物質の消毒には一定の効果はあるが、余り薦められない。空中に散布してはならない。

  ベンザルコニウム塩化物 (「ビオレの手指消毒液」に有効成分として配合)は、厚労省のHPでCOVID-19に有効と記載されているが、ウイルスや結核菌には無効である。多くの細菌には有効である。多くの界面活性剤は消毒作用を示す。

 熱をかけることの出来る食器などの場合は、80℃の熱水で10分間処理すると、ウイルスは破壊される。うがいは風邪対策として推奨されることがあるが、このウイルス対策としてはあまり効果がない。うがいした直後は口中のウイルス量は減少するが、体内に存在しているウイルスはすぐに口中に出てくるので、感染予防にはあまり効果はない。

「感染者は消毒剤を飲んだら良い」と米国のトランプ前大統領が妄言を吐いたが、笑い話にも、冗談にもならない暴言・妄言である。

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(3)マスク

 マスクに関する評価は、この新型コロナウイルスに関する限り今以て定まっておらず、よく解らない側面もある。また国によって医学的な評価のみならず、より好みの差があってマスクの価値判断は大きく異なっている。

 第一次世界大戦の終わる頃、1918~1920年、2年以上に亘って全世界に大流行したH1N1亜型インフルエンザ(スペインかぜ)では、確定症例数5億人(推計)、死者数1700-5000万人で、人類史上最も多くの死者を出したパンデミックのひとつである。日本では当時の人口5500万人に対し約2380万人(人口比:約43%)が感染し、約39万人が死亡したと報告されている。

 単純に比較することは出来ないが、この新型コロナウイルスが流行し始めて約1年、2021年2月1日現在、症例数は1億人、死者数は222万人を越え、収束する気配すら見えない状況である。そして、日本の累積感染者数は39万人以上、死者は5800人に及ぶ。スペインかぜから100年、医学がこんなに進歩したというのに、何故こんなことになっているのだろうかと、多少いぶかしい気がしないでもない。

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日本ではスペインかぜをきっかけに、それまで医療従事者にしか用いていなかったマスクが一般人にも普及するようになった。こうして、日本人だけが不思議なことにマスクに親しみを覚え、「風邪が流行った」、「インフルエンザが流行った」という場合に、マスクを付けることに抵抗が少ない国民性を持っている。一方、欧米諸国では、マスクに異常なほどに抵抗を示しており、効果があることを説かれても、論理は役に立たず、感情的に激しく拒否反応を示している。これが2020年以降における新型コロナウイルスのパンデミックの中で日本の感染状況が他の国に比べて悪化していない一因になっていると考える人々もいるが、真相は不明である。   

 

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 呼気や唾液から外気中へ、また、逆に空中に飛び交う様々な粒子が口や鼻を通して体内に侵入するのを、マスクがどのようにして、どれ位防ぐことが出来るのかを、図で示す。図の一番左端の大きい黄色の半円は花粉の一部である。人の細胞(薄赤色)の一般的な大きさは(直径)花粉の約三分の一、飛沫(空色)はその三分の一から二分の一の大きさである。空中を漂う微小粒子状物質(PM2.5、赤)は、飛沫よりかなり小さい。細菌(青)の大きさの平均値は、そのまた二分の一以下である。

 サージカルマスクの編み目の大きさを知るために矢印で示したが、一目瞭然、大きさだけを考えるなら、細菌はこのマスクの編み目を簡単にすり抜けることが出来る大きさであり、PM2.5もマスクは完全には遮断出来ないだろう。そして、問題のウイルスは見えないほど小さなゴミのような大きさ(赤)で描いてあるが、マスクで遮断出来そうもなく素通りしてしまう。ウイルスより少し大きい微粒子を、N95という特殊なマスクは捕捉することが出来る。

 ① マスクはウイルスの通過を遮るか?

 「悪性度の高い異質のウイルス」の稿で示した電顕写真を見れば、大腸菌に取り付いたファージや、リンパ球から出てくるウイルスがどんなに小さいか、よく解るだろう。ウイルスはマスクの編み目は素通りしてしまう大きさである。但し、口や鼻から飛び出してくる飛沫は、大量の水分に覆われているので、重力に従ってすぐ下に落ちてしまう。又、空中に飛散したものは、サイズが大きくなっており、又水分も含んでいるので、マスクの表面に付着すると思われる。そして、一部がマスクをくぐり抜けて鼻から体内に侵入することになる。新型コロナウイルスの蔓延によりマスクは人々の大covid19_4_009_10.jpgきな関心事になったが、不織布マスクが品薄になり、様々なマスクが出回るようになった。呼吸が楽である、肌に負担が少ない、手作りが出来て洗えるので経済的である、見た目が良くておしゃれが出来る等々、様々な理由で布マスクやウレタンマスクが普及した。しかしながら、本質的には限られた種類のマスクが造られているに過ぎない。工業用など、特殊作業用のマスクに関しては、ここでは話題の対象にはしない。医療用、あるいは一般の人々の使用するマスクに限って少し考えてみることにする。

 ② 不織布マスク

 不織布とは、文字通り繊維を織らずに絡み合わせたシート状のもので、繊維を整えて織っていないので、写真で分かるように、繊維は揃っておらず入り乱れているので、結果的に目が細かくなって小さいものを通さない。フィルターとしては高性能になっていると考えられる。

 さらに、マスクは通常、図のように特別な三層構造に工夫して作られている。外側は水をはじく素材、真ん中にフィルター、そして肌に触れる内側は水に親しむ親水性の素材で作られている。

 高機能不織布マスクでは、製造過程の加工で静電気を蓄えさせ、その力で粒子を捕捉出来るようになっている。すなわち、静電気帯電フィルターを使用している。そのため、マスクは水で洗うと、繊維間に空間が出来てより通りやすくなるというだけではなく、実は水や洗剤で静電気が失われるので、異物をはじくことが出来なくなるのである。すなわち、マスクは1回使用したら廃棄する、使い捨てするものなのである。洗剤で洗えばウイルスは破壊して除くことが出来るが、マスクとしての機能は失ってしまうのである。

 ③ 布製マスク、ウレタンマスク、フェースシールド、マウスシールド 

ガーゼなど織ってある布は、繊維の織り目が整然と並んでおり、目が粗くなり大きいものを通すことが出来る。従って、飛沫を防ぐ効果はより小さくcovid19_4_0011.jpgなる。

多くの人々が、ウイルスを遮断する効果がどれ位あるかを比較検討している。様々なデーターが発表されているので、どれか一つを取り上げて云々することは出来ないので、一応総括的に述べるに留める。

 マスクを装着する目的は、自分の体内から外へ「吐き出す量」、そして外から「吸い込む量」をできる限り下げることである。非常に重要なことは、これら様々なマスクなどの効果を知るために「吐き出し飛沫率」「吸い込み飛沫率」を測定しているのであるが、それは、正しく装着した場合の飛沫率を測定していることである。フェースシールドやマウスシールドを正しく装着するのは割に簡単である。しかし、特殊なマスクは別として、一般に使用されるマスクを正しく装着するのは意外にも難しく、大抵大きな漏れが生じているので、正しく装着した前提に立っているこれら測定結果を単純に論じることは出来ないことを念頭に留めておく必要がある。

 飛沫防止効果(吐き出し、吸い込み)共に、不織布マスクが最も効果が高く、70~80%前後の数値が報告されており、正しく装着すれば一定の効果を期待できると考えられる。一方、布マスクやウレタンマスクでは、様々な商品が作られているので数字を示すことは出来ないが、全く効果がないという結果から、つけ方次第では多少の効果(10~20%)はあるという結果も出ているが、一般的には防止効果は低いようで、防止効果を期待してマスクを装着するのであれば、布マスク、ウレタンマスクどちらも薦められないということになる。

 一般的には、マスクは正しく装着していない場合が多いようで、鼻の周囲、左右の隙間、アゴの下あたりにかなりの隙間をあけて装着している人が多いようである。鼻を出していたり、口も出して顎マスクになったりした場合は、マスクを付けていることにはならないので論外である。

 フェースシールドやマウスシールドは、吐き出し防止効果は10%程度、吸い込み防止効果は、特に小さな粒子に関してはほぼ0%である。これらに関しては、装着する負担が少なく格好良く、「吐き出し」「吸い込み」を防げているかの如く見えるにも関わらず、実質はほぼ何の効果もないという結果である。現状はそのようであるが、大幅に改善されれば役に立つようなものに作り替えることは可能であるだろう。

感染予防の項で記載したが、飛沫はどのような条件下で、どのように飛ぶか、様々なマスクやフェースシールドがどのように飛沫を防ぐか、どのように漏れるかなど、シミュレーションが多数報告されているので検索してマスクの効用を理解されたい。

 マスクの効果に関してシミュレーションではなく、マスクの素材別に実際に実験した結果が発表されたが、シミュレーションよりはより実情を知ることが出来ると考えられるので、その一部について簡単に紹介する。まず、N95マスク、医療用サージカルマスクと不織布マスクは計測値に多少の差はあるがいずれも0.3~0.5μmの微粒子を90%以上遮断して捕捉してしまう。一方、布マスクとポリエステルマスクは20%以下で効果は小さい。ポリウレタンマスクは、飛沫の大きさ(2.0~5.0μm)でも素通りしてしまうという結果である。詳しく知りたい場合は、下に挙げた文献を読まれたい。なお、実験をしたのはウイルス学の専門家である。

出典:「独自実験で判明した「ウレタンマスク」の本当のヤバさ ウイルス専門家の西村秀一医師が徹底検証 (東洋経済 ON LINE 2/3(水),2021) https://news.yahoo.co.jp/articles/165909279c5c275aa0549bb5dc75e69b36466cdc

余り混雑しない場所とか、話をしない環境などでは着用するマスクの種類を臨機応変に選んで着用すると良いと思われる。屋外で人があまりいない場所、公園を散歩しているときなどは、危険度が非常に低いので、マスクを付ける必要はないと考えられる。

 治療薬とワクチンに関しては、次に新たに稿を起こして紹介することにする。このウイルスに襲われてから約1年、色々なことを人類は学んだ。しかし、一番大切なこと、全宇宙・全地球で起こっている事象すべてを統べ治めておられる創造主のお姿が、多くの人々の脳裡には影さえ見えないのは残念である。この災害に際して、私たちを創造し護っておられる全能の神の元に、人々が助けを求めて戻っていくことが出来るようにと祈らずにはおられない昨今である。

ああ、神の知恵と知識との富は、何と底知れず深いことでしょう。そのさばきは、何と知り尽くしがたく、その道は、何と測り知りがたいことでしょう。(ローマ書11章33節)