3 緑色植物・エネルギーの変換工場

 神は仰せられた。「見よ。わたしは、全地の上にあって、種を持つすべての草と、種を持って実を結ぶすべての木をあなたがたに与える。それがあなたがたの食物となる。また、地のすべての獣、空のすべての鳥、地をはうすべてのもので、いのちの息のあるもののために、食物として、すべての緑の草を与える。」そのようになった。(創世記1章29~30節)

[Ⅰ]草が食物・エネルギーの源

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 温暖で適切な湿度を持った大気に包まれた地球に、静かな水の循環と肥沃な大地を整えた後、創造主は地上に生命体を置くための準備として、いのちあるものの食物を備えられた。すなわち、動物は有機物を食べなければ命を維持出来ないので、地上に有機物、すなわち植物を備えて、動物やそして人の食物とされたのである。

 緑色植物は無機物である炭酸ガスと水、そして光のエネルギーを有機物であるブドウ糖を生合成する、つまり光のエネルギーをブドウ糖という有機エネルギーの形に変換する優れたメカニズムを与えられて創造されたのである。「いのちの息のあるもののために、食物として、すべての緑の草を与える。」(創世記1:30)と書かれている通りである。

 創造主が昆虫や魚なども含めた動物全体をこの地上に置かれる前に、食糧としてなぜ植物を準備なさったのだろうか? 「霞を食って生きていけない」と表現されているように、食物として有機エネルギーである植物を外から摂取しなければ動物は生命を支えることは出来ない。眠っているとき、全く動かないでただ呼吸をしているだけでも、心臓はドキドキと脈打って血液は全身を駆け巡り、酸素や栄養を運んで体温を維持するなど様々なことをしている。気が付かなくても息を吸ったり吐いたりして肺が働いて、その他各臓器が働いて大きなエネルギーを消費する。これを基礎代謝と言う。また体を構築する脂肪やタンパク質は絶えず分解と合成を繰り返して、代謝回転しているのである。

 緑色植物は光のエネルギーを使って、様々な野菜、緑の葉物、赤いトマト等各種野菜や根菜と言われるジャガイモなど、また米、麦など穀類、そしてタンパク質を大量に含む豆類など豊かな栄養分を作り、動物たちにエネルギーを供給している。また、リンゴ、ミカン、桃等々、植物から与えられるエネルギーの別のかたちである果物類が与えられた。果物のエネルギーは、動物が簡単に自分のエネルギーとして使うことが出来る形で与えられる。さらに、よく知られているように様々なビタミン類、ビタミンA,B類、C,D類、F、P等々、エネルギー源ではないが、微量ではあっても生命には必須の数々の成分を合成して、提供するように造られたのである。

 神である【主】は、その土地から、見るからに好ましく食べるのに良いすべての木を生えさせた。園の中央には、いのちの木、それから善悪の知識の木を生えさせた。
 神である【主】は人に命じて仰せられた。「あなたは、園のどの木からでも思いのまま食べてよい。(創世記2章9節、16節)

[Ⅱ]いわゆる「食物連鎖?」

plant_feeds_animal_2.jpg 地上の生命体は、下等生物をより高等な生物が食べて、それを、またその少し高等な生物が食べて生物集団全体が維持されているという食物連鎖について生物学や生態学の講義で学んだことがあるだろう。イラストは食物連鎖の1例であるが、生活圏に於いてそれぞれ幾つかの食物連鎖が成立しており、この食物連鎖の出発点、すなわちエネルギーの生産者はいずれに於いても植物である。下等な動物、例えば昆虫のような動物が植物を食べ、その昆虫を例えばネズミのような動物が食べ、それを蛇が食べ、蛇を鷲が食べる。このように、動物はいずれにしても消費者であると同時に、自身より高等な動物にエネルギーを供給している、すなわち食べられる。そして、最終消費者は人間である。                            

 摂取した食物の栄養効率は動物の種類により、また状況により異なるが、成長段階でさえ摂取したカロリーの約10%しか自己の血や肉として再構築出来ない動物もあり、多くのエネルギーを動物はただ一方的に消費しているのである。草食動物は元よりのこと、雑食動物、そして肉食動物もいずれも、エネルギーの最初の源は植物である。人類もそのエネルギー源を様々な種類の動植物から得ていて、見かけ上の、いわゆる食物連鎖のために、あたかも動物だけでも生存可能であるかのごとき錯覚に陥っている方々もいるかも知れない。しかし、動物が使える有機エネルギーを提供している生産者は植物であり、動物はエネルギー的には一方的な消費者であり、動物のエネルギーは完全に植物に依存している。もし地上に植物がなかったら、全種類の動物は飢餓のため絶滅する以外に道はない。  

[Ⅲ]葉緑体:エネルギー変換工場

 では、植物は何を材料にして、又どのようにして、動物に利用可能な有機エネルギーを調達しているのだろう? 植物は無機物を有機物に変えるために、「光合成」という特別なメカニズムを持っているのである。図に示したように、緑色植物は特別な膜構造である葉緑体を持っているが、葉緑体はタンパク質や脂質などの生体高分子と葉緑素という特別な化合物から特殊な膜構造が形成されており、光のエネルギーを効率よく受け取り、生体内のエネルギー活動を行っている。


plant_feeds_animal_3_4.jpg 植物の1枚の葉を顕微鏡で観察すると、写真に見るように角のある形をしている細胞が見える。その一つ一つの細胞の中に見える数多くの丸い緑色の粒が葉緑体である。細胞の中にはイラストに見るように核を始め様々な細胞内小器官が存在している。この一つ一つの葉緑体は光合成工場であり、葉緑体の複雑な構造は、精密な電子部品を造る工場さながらである。


 葉緑体の中に埋め込まれた光合成を行う構造を、一つの光合成工場と見なして、イラストにして示している。この一つの工場システムを一枚の木の葉に見立ててイラストに示しているが、先に示した葉緑体の粒子の構造にこの工場は無数に組み込まれているのである。したがってイラストで見ているのは非常に微細な、光学顕微鏡では見えないミクロの世界であるということを確認しておく。

 この葉緑体工場には光反応炉があり、効率よく光を集めることができる構造が組み込まれている。ちなみに光は、太陽光でなくても光であれば葉緑体の光反応炉は活性化して働くことが出来る。この光反応炉では水を吸収して、光のエネルギーを別の形のエネルギー、有機エネルギー(ATP)と水素(還元力)に変換し次の回転反応炉に送り込む。さらに、この光反応炉で水から酸素を放出する。この酸素はよく知られているように、緑色植物が空気を清浄化すると言われる所以である。

 続いて回転反応炉では炭酸ガスを吸収し、光反応炉から送られてきたエネルギーを使い、有機化合物すなわちグルコースに合成して、葉緑体の外へ収穫物を放出する。

 無機物である水と炭酸ガスから光エネルギーを使って有機化合物を合成する機能を与えられたのは、葉緑体という特別な細胞内小器官を持っている緑色の植物だけである。有機エネルギー及び生体を構築する化合物の入り口であるブドウ糖の合成は、百パーセント植物に依存しているが、一度ブドウ糖が合成されると、それぞれの動植物に独自の代謝回転経路に組み込まれ、ブドウ糖から澱粉(植物)やグリコーゲン(動物性デンプン)へ、またアミノ酸やタンパク質や脂質へと自由に合成されて、生命活動が円滑に維持される。

 主が極めて秩序正しく、順を追って創造の御業を進められたことを、こうして詳細に学ぶことによって、創造の一切をより感謝を以て知ることが出来るだろう。整えられた陸地に、植物を生えさせられ、次の創造の過程に進まれたのである。

 主は家畜のために草を、また、人に役立つ植物を生えさせられます。人が地から食物を得るために。(詩篇104篇14節)

 

葉緑体の具体的な生物学的構造や反応のメカニズムは、より専門的に取り扱っているので、興味のある方は読んで下さい。


専門的な考察

[Ⅳ]生体膜


plant_feeds_animal_5_6.jpg 生物を特徴付けるものの一つは、内側と外側を隔てる特別な生体膜が設けられていることである。各臓器、組織、細胞、そして細胞内小器官はそれぞれ特別な生体膜が内部と外部を隔てている。イラストに示しているように、細胞は細胞膜で仕切られているが、この細胞膜は中段に示すような特殊な構造をしている。この膜の詳細なイラストは改めて示して説明する。この膜は最下段に示すようにリン脂質二重層になっており、リン脂質は水溶性の頭部と疎水性(水に溶けない)の尾部から出来ている。

 生体膜は、先のリン脂質分子の疎水性尾部同士が疎水結合して、水溶性の頭部を外に向けて凝集して二重層の膜構造を形成する。その膜の所々にタンパク質が貫通していて、チャネルを形成して物質の膜透過を可能にしている。生体膜は簡単にはこのような本質のもとに、それぞれの臓器・組織・細胞の特性に合致するように造られている。

 膜の構造をさらに詳細に模式的に描いたものを見てみよう。先に説明したように膜の基本構造はリン脂質二重層であり、そこに様々な膜タンパク質が、貫通タンパク質として、あるいは表面蛋白質として膜の途中まで結合したりして、相当大量に結合している。

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 これらタンパク質は様々な酵素活性を持っているのが通常であり、また、貫通タンパク質は特別な物質の膜透過を可能にするために様々な方法が組み込まれている。また糖鎖や脂質などが膜タンパク質に結合していることが多く、あるいはリン脂質に直接結合してもいる。あるいはコレステロールなどもリン脂質に結合している。このように生体膜はリン脂質の性質、タンパク質の性質、糖質などによって特別な性質を与えられて、柔軟な適応性を持つ膜を形成している。こうして、それぞれの膜の透過性はこの様々な構成成分によって決定され、特別な透過選択性を賦与されているのである。

[Ⅴ]葉緑体

plant_feeds_animal_8_9.jpg 葉の断面のイラストで分かるように、葉には細胞が一列に並んでいて、細胞の中には葉緑体が並んでいる。葉の表面に並んでいる葉緑体が光を吸収して、光合成を行うために最適な構造が備えられている。

 葉緑体は膜構造で形成されており、カプセルのような形をしている。葉緑体の縦断面を見ると、内部構造が明確に見えるように、チラコイドと呼ばれる構造を形成し、そのチラコイドが束のように折り重なってグラナを形成している。

 葉緑体の横断面を見ると、膜構造のチラコイド、液状部分のストロマ、等の配置がよく分かる。グラナ、ラメラ、チラコイドの詳細な構造を示す。光化学反応は光化学系1、光化学系Ⅱとの二段になって行われ、それが構造のどの部分で行われているかという微細構造まで判明している。

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[Ⅵ]光合成

plant_feeds_animal_12_13_.jpg 植物が霞を食べて存在しており、さらに動物に食物を与えることまで出来る能力を与えられた創造主を改めて称えずにはおられない。この「光合成」反応を可能にしている葉緑体の構造を少し詳細に学んだが、さらに光合成を少しだけ眺めてみよう。

 葉緑体は光を集める特別な装置を備えられており、それを模式的に表すと、パラボラアンテナのように効率よく光を集めることが出来る。光を吸収する色素の中心は各種のクロロフィルであり、それ以外にカロチノイドとキサントフィルがある。集まった光は反応を行う中心に集められて、このエネルギーが光化学反応に使われる。この集光は葉緑体内で色素が光を吸収し、エネルギーを順に受け渡しをして、最後に反応中心に送り届ける。反応中心に書いているP680は先に書いた光化学系Ⅱであり、P700は光学系Ⅰである。

 光合成は、先に説明したように二酸化炭素と水が、光のエネルギーによって有機エネルギーが合成され、そして酸素が放出される。
二酸化炭素 + 水 → 植物の成長・グルコース + 酸素

 光合成をさらに少し詳しく図示すると、光を受けて起こる反応を明反応と言い、最初に光合成工場として示した光反応炉である。この明反応では水を吸収し酸素を放出する反応である。そして、この明反応によりエネルギー・ATPと還元力NADPHを合成し、回転反応炉・カルビンサイクルに送り届ける。このカルビンサイクルは炭酸ガスを吸収して、サイクルが回転して、生成物NADPADP+Piを、そして有機物のブドウ糖を放出する。
 カルビン回路および光化学反応の収支式をまとめると以下の反応式となる。

6CO2 + 12H2O → C6H12O6 + 6H2O + 6O2

光合成反応は、葉緑体の膜内で光化学反応が行われるのであるが、反応に関与する分子が光化学反応を行うために最適な状態に、反応の進む順番に並べられて膜が造られている。前に説明したように、反応に関わる様々な分子が二重層膜に整理整頓され並べられている。それぞれの分子がどのようなものであるか、どのような反応をするかなどの詳細はこの記事では省略する。

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 図の左端の光化学系Ⅱ(PSⅡ・P680)が光を吸収し、このエネルギーによって酸素発生複合体となり、水が分解されて酸素とを生じる。PSⅡからはプラストキノン経由でチトクロム系へ至り、光化学系Ⅰ(PSⅠ・P700)へと送られる。PSⅠでNADP+レダクターゼによりNADP+が還元されてNADPHが生成する。さらに、生成した還元力によってATP合成酵素が働き、ADPがエネルギーを受け取ってリン酸化されてATPが合成される。(注:ATPは生物が直接利用できる唯一のエネルギーである)

 並んでいる分子の順番に反応が秩序正しく進んでいき、反応はスムースに進んでいくのである。紙の上に書いてある膜にも、またこれら化合物にもどんな動きもないが、実は膜は一時だって静かに落ち着いてはいない。膜は非常に柔軟で、常に波打って流動的であり、膜に結合している分子は同じ場所に固定されているわけではない。分子は膜の中で自由自在に泳いでいるのである。行儀良く反応の順番に並べられている分子は、堅く不動の状態で並んでいるのではなく、全体としての秩序を保ちつつ、しかし動き回っているのである。

[Ⅶ]結語

 主は、あなたが畑に蒔く種に雨を降らせ、その土地の産する食物は豊かで滋養がある。その日、あなたの家畜の群れは、広々とした牧場で草をはみ、畑を耕す牛やろばは、シャベルや熊手でふるい分けられた味の良いまぐさを食べる。(イザヤ書30章23-24節)