8.進化論の大前提・宇宙の始まり

ヘブル人への手紙四章十二節
神のことばは生きていて、力があり、両刃の剣よりも鋭く、たましいと霊、関節と骨髄の分かれ目さえも刺し通し、心のいろいろな考えやはかりごとを判別することができます。

進化論を検証するには

 何事であっても土台が崩れた時には,その上には何も載せることは出来ない。進化論が成立するためにも同様に、様々な前提が必要であり,それらの前提が科学的に検証できない対象であることもあるが、多くは科学的に検証可能である。そして、それら科学的に検証が可能な前提は全て否定されていることを前号で簡単に説明した。

 進化を証明しているとして提出されている個々のデーター、例えば数多くの化石が進化の証拠として使われている。その説明が間違いであると証明することは重要であり、そのような論文は数多く発表され,また講演などで紹介されている。それを理解するために高度の専門知識を必要としないことも相俟って、より多くの人々に納得されやすい長所がある。このような様々な「進化の証拠」とされているデーターに関しては、今後順次考察する予定である。

進化の前提

 現在、進化論は極めて専門的になって諸説が入り乱れ、この分野の専門家でなければ理解出来ないほど複雑になっている。しかしながら非常に専門的な知識や考え方は、進化論が正しいか否かを考えるためには、ほとんど役に立たないどころか,ある意味で混乱さえ招きかねない。そのような,言わば進化仮説の余りにも専門的に詳細に亘る問題は、進化が起こったのかどうかという根本的なことを考えるための材料を必ずしも提供していないようである。

 進化論の背骨、本質、進化論を信じるための支柱となっている大前提が重要であり、これらの大前提・土台を詳細に吟味することによって進化が起こったのかどうかについて肉迫できるだろう。多少は難しい課題かもしれないが,これら進化の前提について個々に検討を加え,共に考えて見たい。

進化の前提の一・定常宇宙論

 「宇宙・地球には始まりはなく永劫の過去から常に存在しており,そして宇宙・地球全体として激変はなく、つまり大きな変化をしないまま( 斉一説)、永遠に定常状態を維持して存在し続ける」という、定常宇宙論を人類は古くから信じていた。星を観測し,地球上の物理的現象を観測する趣味の段階から、時代が進んで趣味を遙かに超えて天文学・物理学という「科学」になって,学問としての強固な常識になった。ところが、天文学も物理学もそれ以後、さらに高度に進歩するにつれて、この強固な常識を諦めざるを得なくなり、宇宙に始まりがあったことを受け容れなければならなくなった。この常識の壁を突き破らなければならなくなった時に、物理学者や天文学者がどれほどの苦しみを味わったか、筆者には解らない。始まりはなかったと考えていた時には何となく安定していた思考回路は、始まりがあったと仮定した途端に,その「始まり」の「その前」はどうだったのかという禅問答が始まるというジレンマに陥ってしまう危険もはらんでいる。

定常宇宙論を諦めてビッグバン説へ

hazah_8_1.jpg 定常宇宙論を諦めて宇宙に始まりがあったことを認めると,宇宙の始まりと終わりが科学的研究の重要な対象となった。宇宙は「いつ」「どのように」して始まったのか,そして、終わりはあるのか、無いのか、終わりがあるのであれば、「いつ」「どのようにして」という疑問である。宇宙の始まりについては諸説があるが、今以て有力であり一般の人々にも馴染み深い仮説は、ビッグバン仮説(ビッグバン理論)である。前号で簡単に紹介したように、宇宙の最初期の超高温度・超高密度の状態が爆発的に膨張して現在にまで拡がり、今もなお拡がり続けているとする説である。高温度・高密度から膨張し始めたと同時に冷却し、しかも天体、特に地球は驚くべき秩序を獲得したということも説明しなければならない。 一九二〇年代にハッブルが、宇宙は膨張していることを発見し、天体が遠ざかる速度とその距離が正比例するという法則(ハッブルの法則)を発表した。図に示したように,極端な高温・高密度の状態( 図の一番下の一点) が爆発して宇宙が生まれた。その後、空間自体が時間の経過( 上方向) と共に膨張して拡がり、銀河はそれに乗って相互に離れていった( 中段、上段へと順次連続的に) と仮定する。ハッブルの法則に従って宇宙が膨張し始めた時点がビッグバンの起こった時期と考えるのである。現在の膨張速度を測定し、ビッグバンの起こった時から現在まで膨張速度は不変であると仮定すると( 斉一説),現在の膨張速度からビッグバンが起こった時点まで遡って時間を計算することが出来るのである。そしてそれは、単純な数学的取り扱いの処理に過ぎず、今から一三八億年(1.38 × 1010 年)前と簡単に算出される。宇宙は一三八億年前に始まったという考えが一般に信じられるようになっている由来である。なお、この説では,一三八億年前にビッグバンという「大激変」があったが、その後、激変はなく常に一定の速度で,一定の方向への変化が起こっているという斉一説を採用しており、大激変と斉一説という矛盾する二つの説が混じり合った混沌とした説である。

太陽系・地球が偶然に秩序を獲得

hazah_8_2.jpg 今更紹介する必要の無い不世出と思えるほど優秀な、天才的な数学者・物理学者・天文学者であったアイザック・ニュートン( 写真) について,次のような逸話が残っている。ニュートンは頭脳だけではなく手も器用であったようで、ある時太陽系の模型を作成して友人の科学者に見せた。友人はその見事な模型に感心して,誰が造ったのかと尋ねたところ,ニュートンは誰も造ってはいない,自然・偶然に湧いて出たのだと答えた。こんな模型が自然に生じるわけがないと,押し問答を繰り返した末に、からかわれた友人は怒ったという。
 それでニュートンは,「こんなに簡単な模型でさえ,自然に生じるわけがないと考えるのに、これとは比較の対象でさえない素晴らしい本物の太陽系・大宇宙が自然に生じたと何故考えることが出来るのだ」と答えたという。
 十七世紀の科学者同士の会話として語り継がれている逸話が、どこまで事実であったかはさして問題ではない。大問題なのは、この逸話は今も事実関係として私たちに迫ってくるということである。ちょっとした手作りの模型であれ、精巧に作成された模型であれ、製作者が知恵を絞り,工夫して作成しなければ決して出来上がらないことは、子どもでさえ知っている。にもかかわらず、優れた頭脳を持ち学問を積み重ねた学者が,本物のこの見事な天体が偶然に出来たと考えているのである。
hazah_8_3.jpg ビッグバンで宇宙が始まり、斉一説に従って一定の速度を維持して膨張し今も膨張し続けており、その過程で自然に冷却した。この膨張はただ単に膨張したのではなく,科学的な根拠は何もないが偶然に築かれた秩序正しい過程を経て膨張し,数々の星座が偶然にそれぞれ特徴的な秩序を獲得して拡がって維持している。太陽系もまた偶然に秩序が確立し,太陽の周りを恒星がそれぞれ定まった軌道を確保して,常にその軌道を一定の周期をもって秩序正しく公転するようになった。偶然の産物であるから,それぞれの惑星は軌道上に留まっている必要はないのであって,偶然に軌道を離れて暴走し,太陽に突入して燃え尽きたり太陽に大きな損傷を与えたり、あるいは惑星同士がぶつかり合って互いに自滅してもよさそうなものである。しかし、実に秩序正しく定められた軌道に留まり,美しい太陽系を乱すことはない。

驚くべき地球の秩序・護られている地球

hazah_8_4.jpg その圧巻が地球である。植物が繁茂し,動物が棲息し,そして人間が豊かな生活を営むことが出来る地球環境を維持するために、大磁石に造られ、然るべき大きさ・重力を備えて見事に整えられている水の惑星、地球なのである。それを支えるために、然るべき一定の相対的な位置関係、大きさの相互関係を持って太陽と月( 地球の衛星) が存在しているのである(後述)。
 火の玉が冷却して,どのようにして複雑な秩序を獲得したのだろうか? どのようにして豊かな水を得たのであろうか? どのようにして栄養豊かな大地が形成されたのであろうか? どのようにして然るべき大気が出来たのであろうか? 動物が生活するために酸素は一定の濃度( 酸素分圧) で存在している必要があるが、しかし,多すぎても駄目なのである。約二一%の酸素が必要であり、それ以上ではかえって弊害を生じる。植物が正常に生育し,必要な酸素を放出するためには,ごく僅かであるが炭酸ガスが存在することが必須条件である。それ以外は,無毒の,反応性のない窒素ガスでなければならない。このような適切な大気が,偶然に生じることが出来たと考えるのであろうか? そして、水には適切な酸素が最初から溶け込んでいる必要があった。地球上に棲息する生物の話は、次号で詳細に説明するが,生命のことに触れなくても,秩序ある水の惑星の成り立ちを科学とは無縁の「偶然」という代物に委ねることが出来る頭脳の動きは,ニュートンの逸話を語るまでもなく理解不能である。

地球のためにある太陽と月

 他の惑星や数々の星はともかくとして、少なくとも太陽と月だけは、然るべき位置に,然るべき大きさを持って存在していなければ,地球上の動物はおろか、地球そのものでさえ無事に存在できない。
 太陽は地球の直径の約百九倍、質量は約三十三万三千倍であるが、太陽系の物理的中心であり、太陽系の全質量の九九・八六パーセントを占めており,全天体に重力の影響を与えている。地球は太陽から様々な恩恵を受けており,地上の動植物は太陽がなくては存続し得ないことは言うまでもない。太陽は豊かな光を注ぎ,また熱を与えている。太陽がなければ真っ暗闇の中に地球は包み込まれるし,想像を絶する低温状態に置かれるので,凍り付いてしまうこと必定である。
hazah_8_5.jpg しかしながら、同時に激しい太陽風に地球はさらされているのであるが,図のように地球は大きな磁石として成り立っているので,磁力線の中心に描かれている地球は、言うなら太陽風を「弾き飛ばして」いる。地球の衛星・月は非常に大きく、他の大きな惑星の衛星と比べても月は大きく、母惑星地球に対し不釣合いなほど大きな衛星であるとも言える。

hazah_8_6.jpg地球に対する太陽と月の質量、相互の半径比、相互の距離などを表にして示す。これらが相互にこの位置関係にあること、そしてこの大きさの比であることが、地球の存在にとって非常に重要なのである。特に地球の植物にとって,地球の海にとって,地球に住む動物にとって,これらの比が維持されていることが重要かつ不可欠の条件なのである。この点に関しても,次号に詳細に考察する。

 

結語 天は創造主の栄光を語り告げ大空は御手のわざを告げ知らせる。詩篇十九篇一節


このシリーズは、マルコーシュ・パブリケーションの発行するキリスト教月刊誌「ハーザー」で2014年2月から連載した内容を転載したものです