17.人間中心主義・ヒューマニズム

イザヤ書二十九章十三節

そこで【主】は仰せられた。「この民は口先で近づき、くちびるでわたしをあがめるが、その心はわたしから遠く離れている。彼らがわたしを恐れるのは、人間の命令を教え込まれてのことにすぎない。

 [Ⅰ] 最高・最善に創造された世界

 (一) 真っ直ぐな目で自然を見る

望遠鏡を使って遠い天体を観察しなくても、顕微鏡や電子顕微鏡を使って生物の詳細を調べなくても、私たちが日々体験していること自体が本当は驚異的な神秘である。人間の理解を遙かに超えた不思議の世界である。ただ、身近であるが故に、不思議を不思議と捉える感性を失ってしまったようである。

 明治生まれの筆者の母が、昔々の若い、若い娘時代に友人と動物園に行って、生まれて初めて奇妙な動物「象」を見た。今の人々には母たちの驚きは決して理解出来ないだろう。現代の人々は、実物を見る前に、絵本や写真で、またテレビでは生きて動いている象の姿を見て知っているからである。しかし、動物と言えばイヌやネコを連想するのが関の山であった母たちが、長い鼻をブラブラさせたり高く空中に差し上げたりしている奇妙な動物の姿を目の当たりに見たのである。驚きの余りあんぐりと口を開けて立ち尽くしたそうである。hazah_17_1_2.jpg

二) 特別な機構を備えて創造されたいのち

ゾウがあの長い鼻とまるまるとした胴体と太い四本の脚を備えられて、健康に生きている事実だけでも生物学者にとっては驚きであり、現在に至ってもこの美しい生き物がどのようにして無事に生きているのか、詳細には解明されていない。ただ、鼻が短いと生き延びることは難しいようである。

hazah_17_2.jpg

 動物園の別の人気者,象とは対照的な美しい姿態を持っているキリンも、あの筋肉モリモリの長い首と、細すぎるほどのすらりと長い脚を持って、どのようにして健康に生きているのか様々に研究されてはいるが、その詳細が解明されているわけではない。後に、いのちの創造を学ぶときに、余裕があればキリンのいのちにどのように特別な機構が組み込まれているかを紹介したいと思う。

(三) 歪められた素直さ・人間中心主義への道

人間は創造された時には素直な感性を与えられたのである。そして、昔の科学者はそのような視点を持って、天体を観察し、いのちを慈しんで研究して創造主を褒め称えたのである。ところが情報がふんだんに提供されるようになって、人類は創って下さった方を軽んじ、反逆精神を増幅させてきた。与えられている恵みと祝福を当たり前と思う傲慢が身に付いてしまったのである。

[Ⅱ]  ヒューマニズムとは?

一) ヒューマニズムとは?

 ヒューマニズムはしばしば博愛主義と混同されるが、人文主義・人間中心主義であって、博愛主義とは別の思想である。ヒューマニズムを主張し、社会に広める運動を展開しているヒューマニスト協会の説明の項で、定義・思想を少し詳細に紹介するが、一言で言うと無神論、進化論、そして人間の努力で理想社会が実現されるとする考えである。しかし、ヒューマニズムの土台に立って自分で何でも出来ると人間の能力を誇示してきた結果は明らかである。世界に戦争のなかった時代はなく、そして今、世界中が暴走しており理想社会の実現などとはほど遠い崩壊に向かっている。

  現在、この崩壊に向かう勢いに或る程度のブレーキがかかっているのは、神のかたちに創られた人が、罪の後にも優れた知性・精神性は主の憐れみにより没収されなかったためである。人間も社会もボロボロになりつつあるが、主の恵みによって何とか食い止められているのである

(二) ヒューマニズムの発祥

hazah_17_3.jpg 人は神の御姿を頂き,眼に見える外側の姿も,内側の霊性や精神性も創造されたままで美しく、素直に受け容れて良かったのである(創二25)。その素直な心に「二人の目が開いては困ると神は思っている、神は嘘つき、神に反逆して自分の思い通りに振る舞ったら神のようになる」とサタンが誘惑をし、無垢な二人は見事に引っ掛かったのである。

そこで女が見ると、その木は、まことに食べるのに良く、目に慕わしく、賢くするというその木はいかにも好ましかった。それで女はその実を取って食べ、いっしょにいた夫にも与えたので、夫も食べた(創世記三章6)。

 美味しい物を食べたい、着飾りたい、経済的、精神的に豊かな生活をしたい、賢くなりたい、良い評判を得たい、高い地位・名誉を得たい等々、人間は様々な欲望を抱えている。この欲望を満たして上げようと様々に誘惑するサタンは、イラストのようにエバの目には美しい花に見えて、チョロっと出ている尻尾に気が付かない。悪魔が本性を顕すことは殆どなく、むしろ親切で優しく、愛に満ちた善人、善意の組織であるという見せかけを装っている。「オレオレ詐欺」と言われている一連の詐欺事件が悪質化し、増加し続けるのも、親切で優しい羊の皮を狼が被っているからである。

 このように、宇宙や人間など全てを創造し、維持し護っておられる創造主をないがしろにし、反逆して我が儘放題にしたい心が「ヒューマニズム・人間中心主義」である。この思想は人類史の最初に端を発し、時代を経るにしたがって徐々に増幅し、広がってきたのである(ロマ書五12)。

(三) 聖書に見られるヒューマニズム

そのころ、イスラエルには王がなく、めいめいが自分の目に正しいと見えることを行なっていた。(士師記二十一章25)

 神の判断より自分が正しいと考えるヒューマニズムに足をすくわれた人々のことが、聖書の中で様々に描写されているが、中でも士師記の記録は驚くほどヒューマニズムのオンパレード?である。「自分の目に正しいと見える」ことを行っても良いではないかと人は思うかも知れない。しかし、人間が好き勝手なことをしたために解決出来ない困難に落ち込み、そのたびに主に泣きついている。

 このように一大事が起こる度に反逆の民に示された主の愛と慈しみには驚くほかない。そして士師記の民と同じようなことを私たちも行っているが,一大事が起こった時の振る舞いは、日本人では大いに異なり縋るべき相手を取り違えるので、一向に問題解決に向えない。

(四) ヒューマニスト協会

hazah_17_4.jpg 無神論・進化論を世界に広めることを目的として、一八九六年、英国ヒューマニスト協会が設立され、その後ヨーロッパ、アメリカなど各国に運動が広がった。協会は、超自然や創造主を否定し、人間の努力で幸せが達成できると信じる。

 ヒューマニズムとは、人間は成長し続け、超自然(超越者の存在とその教え)なしに、人間の能力と責任だけで倫理的自己実現が可能で、自発的・知的に公共の幸福のために協力して社会貢献を行える人生に至ると断言する。すなわち、僅かな人への救いではなく「より多くの人に幸福をもたらす」という切なる願いを達成することによって、人間存在の意義目的を遂行する。   

(五) ヒューマニスト宣言

アメリカ・ヒューマニスト協会によるヒューマニズムの定義

① 無神論:ヒューマニストは、宇宙は創造されたのではなく独立して自存したとし、創造主を認めない。超自然的な存在が人を超える権威であると考えるのは、人類の発展に障害である。超自然者が存在すると信じるためには、人間に確認出来る証拠が必要と考える。人間自身が権威・判断者であり、これは徹底的な人間賛歌なのである。

人類の存続と完成という問題にあたっては、創造主は意味が無いか、不適切である。いかなる神も人を救えない。人を救うのは人自身である。人類の知恵と力ですべてを達成するのが宗教の目的であり、人類の宗教的伝統の中にある良い教えを維持する必要があると評価する。

【主】が、あなたがたの上に深い眠りの霊を注ぎ、あなたがたの目、預言者たちを閉じ、あなたがたの頭、先見者たちをおおわれたから(イザヤ書二十九章10)。

hazah_17_5.jpg イギリスの進化生物学者・動物行動学者であるクリントン・リチャード・ドーキンスは、「恐らく神はいない」とバスに大きく掲げて,ヒューマニストキャンペーンを繰り広げた(写真)。「神は妄想である」「利己的な遺伝子」等を出版し「生物は遺伝子によって利用される"乗り物"に過ぎない」と書き、多くの読者に衝撃を与えた。

 ② 進化論:人類が自然の一部であり、連続した過程(進化の過程)の結果出現したと信じる。自然現象を説明するには科学的に証明されなければならない。人間の知恵と力で全てを達成し、自己実現に到達することが目的であり救いである。伝統的宗教の教理や聖書の教えでは、自然現象を説明する証拠は発見できない。

 そこで、あなたがたにとっては、すべての幻が、封じられた書物のことばのようになった。これを、読み書きのできる人に渡して、「どうぞ、これを読んでください。」と言っても、「これは、封じられているから読めない。」と言い、・・・(イザヤ書二十九章11)

神学者・牧師に尋ねると「天地創造は文字通りではない。これは神話だ」と言う。

 ③ 唯物論:ヒューマニストは、生命が肉体と霊から成っているという伝統的な二元主義を拒む。しかし生命は有機物であると考える。

ヒューマニズムは人が人生を終えるまでに人格を完全に実現させることを考慮し、今この世でそれが発達し成就することを求める。これがヒューマニストの社会的情熱の説明である。

 また、その書物を、読み書きのできない人に渡して、「どうぞ、これを読んでください。」と言っても、「私は、読み書きができない。」と答えよう。(イザヤ書二十九章12)

政治家・科学者に尋ねると「これは宗教だから」と言う。

hazah_17_6.jpg イギリスの進化生物学者、ヒューマニスト協会を推進したジュリアン・ハクスリー(写真)は、自然選択説を強力に擁護し、二十世紀中盤の総合進化説の形成を主導した。一九四六~四八年までユネスコの初代事務局長を勤めた。ユネスコの働きはヒューマニスト協会の理念、無神論・進化論・唯物論に支えられている。

[Ⅲ]  結語

第二ペテロ三章三、四節〜七、九節

まず第一に、次のことを知っておきなさい。終わりの日に、あざける者どもがやって来てあざけり、自分たちの欲望に従って生活し、次のように言うでしょう。キリストの来臨の約束はどこにあるのか。先祖たちが眠った時からこのかた、何事も創造の初めからのままではないか。しかし、今の天と地は、同じみことばによって、火に焼かれるためにとっておかれ、不敬虔な者どものさばきと滅びとの日まで、保たれているのです。主は、ある人たちがおそいと思っているように、その約束のことを遅らせておられるのではありません。かえって、あなたがたに対して忍耐深くあられるのであって、ひとりでも滅びることを望まず、すべての人が悔い改めに進むことを望んでおられるのです。