21.いのちを支えるための仕組み - 光合成

「神は仰せられた。『見よ。わたしは、全地の上にあって、種を持つすべての草と、種を持って実を結ぶすべての木をあなたがたに与える。それがあなたがたの食物となる。地のすべての獣、空のすべての鳥、地をはうすべてのもので、いのちの息のあるもののために、食物として、すべての緑の草を与える。』そのようになった。」(創世記一章二十九~三十節 )

 [序] 創造の順序

 はじめに天と地を創造なさった主は,いのちを創るために必要なものを順序よく創造なさった。いのちを支えるために光を創り、必須である水と大気を創られた。

創造の三日目に地と海を分けられたが、この時には海が一つと乾いた大地が一つ現れた。現在、地球には四大陸と大小様々な無数の島が存在しているが,創造された時の地球は全く異なった姿をしていたのである。ちなみに日本はその小さな島の一つである。

 

[Ⅰ] 陸地に植物を生えさせられた

 「地は植物、すなわち種を生じる草を、種類にしたがって、またその中に種がある実を結ぶ木を、種類にしたがって生じさせた。」(創一・12)。

 (一) 花・実・種を付け成熟した状態で創造された

image2.jpeg温暖で適切な湿度を持った大気に包まれた地球に、静かな水の循環と肥沃な大地を整えた後、創造主は陸地に種を生じる草木、実を結ぶ果樹、植物を生えさせられた。植物はすべて、花を咲かせ、実を実らせた成熟した状態で創造されたのである。後にいのちあるものを地上に創造し、それを支え栄えさせるために、備えられたのである。

 (二) 種類にしたがって創造された

「植物は生物ではないのか」という疑問を持たれる方も多いかも知れない。草や果樹など植物は、タンパク質や脂質などから出来ている細胞が構成単位であり、そしてDNAに組み込まれた情報に基づいて再生産することが出来るなど、物質的に、また生物学的には生物として認識される。そして、その情報を伝達する「種類にしたがって」創造されたのである。
 一方、「生きている」という聖書の定義は、血と肉を持ち、いのちの息を与えられたものを指すのであり、植物は「生きているもの」の中には含まれていない。いのちの息のあるもの、すなわち動物の食物として備えられたのである。

 

 [Ⅱ] いのちを支えるための精巧な仕組み

 (一) 動物のための食物を生産

image3.jpeg昆虫や魚なども含めた動物全体をこの地上に置かれる前に、創造主はなぜ食糧として植物を準備なさったのだろうか? 「霞を食って生きていけない」と表現されているように、食物として有機エネルギーである植物を外から摂取しなければ動物は生命を支えることは出来ない。眠っているとき、全く動かないで呼吸をしているだけでも、心臓はドキドキと脈打って血液は全身を駆け巡り、酸素や栄養を運んで体温を維持するなど様々なことをしている。気が付かなくても息を吸ったり吐いたりして肺が働いて、その他各臓器が働いて大きなエネルギーを消費する。これを基礎代謝と言う。また体を構築する脂肪やタンパク質は絶えず分解と合成を繰り返して、代謝回転しているのである。

 (二) エネルギー変換工場・・・葉緑体

エネルギー変換工場を持っている緑色植物の葉の断面図に示したように、ぎっしりと並んだ細胞一つ一つに多数の葉緑体が存在している。

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image5.jpg 植物細胞は、細胞膜の外側を繊維質からなる堅い細胞壁によって囲まれており,角張った構造をしている。細胞の内側は、一つの核と大抵は多数のミトコンドリアと諸々の小器官が細胞質に浮かんでいる。植物細胞には大きな液胞が存在していることが多い。そして、緑色細胞には多数の葉緑体が存在している。植物細胞の中を透視すると,右側の図に示したように,葉緑体が折り重なるように多数観察される。


image6.jpg この一つ一つの葉緑体は図のように外膜と内膜に囲まれ,その内側の液状のストロマにチラコイド構造が折り重なってグラナを形成している。この複雑で精巧な葉緑体の膜構造に支えられて、多彩な光合成反応が展開される。

 膜内に秩序正しく配列されて,順序正しく行われる生体反応は、単純化すればバケツリレーに例えることが出来る。バケツを受け渡しする人は,まずお互いに間違いなくバケツリレーが出来るように近くに整列して並んでいる必要がある。バケツリレーをする人々は、反応を遂行する膜に存在する分子に例えられ、バケツ及びバケツ内の水は反応物、反応中間産物、及び反応生成物に例えられている。

image7.jpg もちろん,反応を遂行する分子は一つずつ異なった分子であり、したがってそれぞれの分子が行う反応はそれぞれ異なっている。さらに受け渡しするバケツは時には異なっているが,バケツの中の水は同じであることが多い。このバケツリレーのように,膜に組み込まれている各構成成分は、膜内で反応の順番に整然と並んでいる。

 生物細胞はタンパク質や脂質などの生体高分子で構成されている特別な生体膜から成り立っており、細胞膜もミトコンドリアや葉緑体などの細胞内小器官も特殊な膜構造を形成している。生体膜の構造は、図に示すように、リン脂質の部分構造の水を撥ね付ける脂溶性の尾部同士が寄り合い、水溶性の頭部を外に向けて二重層を形成している。

 この二重層膜に脂質、タンパク質、糖タンパク質。酵素、多糖類、補酵素、脂質、糖脂質など,様々な構成成分が秩序正しく組み込まれている。膜は堅いものではなく,膜を物質が出たり入ったりし,また特別で多彩な生物反応が膜を介して,あるいは膜内で行われるために,反応に関わる分子が反応の起こる順序に並べられ、柔軟性に富んでいる。

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 (三) 無機物から有機エネルギーへの変換

 緑色植物は無機物である炭酸ガスと水、そして光のエネルギーを使って、ブドウ糖という有機エネルギーの形に変換する優れたメカニズムを与えられて創造された。「いのちの息のあるもののために、食物として、すべての緑の草を与える。」(創世記1:30)と書かれている通りである。

image10.jpg では、植物はどのようにして、動物に利用可能な有機エネルギーを調達しているのだろう? 無機物を有機物に変えるために、緑色植物は「光合成」という特別なメカニズムを持っているのである。先に述べたように、膜構造の中に、反応の順序にしたがって数多くの分子が秩序正しく整列している。

 葉緑体の中に埋め込まれた光合成を行う構造を、一つの光合成工場と見なしてイラストに示す。この一つの工場システムを一枚の木の葉に見立てているが、先に示した葉緑体の粒子の構造に、この工場は無数に組み込まれているのである。したがってイラストで見ているのは非常に微細な、光学顕微鏡では見えないミクロの世界である。

image11.jpg この葉緑体工場には光反応炉があり、概念的には言わばパラボラアンテナのような構造が組み込まれていて、効率よく光を集めることができる。集められた光は、組み込まれた特殊な構造によってエネルギーは無駄なく反応中心に送り込まれる。ちなみに光は、太陽光でなくても光であればよく、葉緑体の光反応炉において活性化されて働くことが出来る。この光反応炉では水を吸収して、光のエネルギーを別の形のエネルギー、有機エネルギー(ATP)と水素(還元力)に変換し次の回転反応炉に送り込む。

 

image12.jpg 図は前述のグラナであり、この光反応炉では、光のエネルギーによって起こる還元反応により、NADPHという還元性物質と有機エネルギー(ATP)が生成する。このATPと還元力は回転反応炉へ送り込まれ、吸収された炭酸ガスを使って、収穫物である有機化合物(グルコース)を合成して、葉緑体の外へ動物の食物の原料として放出する。

 

 (四) いのちの息を支える酸素

 光反応炉では、水が分解して水素 (前述の還元力) とそして、酸素を放出する。発生した酸素は空気中に放出され,酸素呼吸をする動物のいのちを支え、ミトコンドリア内で大きなエネルギーを生み出す。

 よく知られているように、緑色植物が空気を清浄化すると言われるのも,空中の炭酸ガスを吸収して酸素を発生するためである。念のため、植物も常に呼吸をして炭酸ガスを発生するので,光の射さない条件下では、緑色植物を室内に置いて光を当てないと,空気を汚すのは動物と同じである。

 []結語

 動物の創造に先だって、動物の食物と呼吸を支えるために、植物が創造された。「光のエネルギーと水と炭酸ガスから、動物の栄養である有機化合物といのちを支える酸素を生成する」という、動物のいのちの維持にとって必須の機能であるが、動物が持っていない機能を先に植物に与えてから、創造主は動物を地上に創造なさった。

 緑色植物の葉緑体内での光合成反応の機序とそれが行われる構造の精密さを学ぶと,主の御業の想像を絶する美しさに驚嘆せずにはおれない。

 「主は、あなたが畑に蒔く種に雨を降らせ、その土地の産する食物は豊かで滋養がある。その日、あなたの家畜の群れは、広々とした牧場で草をはみ、畑を耕す牛やろばは、シャベルや熊手でふるい分けられた味の良いまぐさを食べる。」(イザヤ書三十章二十三~二十四節)


このシリーズは、マルコーシュ・パブリケーションの発行するキリスト教月刊誌「ハーザー」で2014年2月から連載した内容を転載したものです