25.いのちの血液を活かす仕組み・肺臓

(神)創造主ヤーウェは土のちりで人を形造り、いのちの息をその鼻に吹き入れられた。そこで人は生きた者となった。(創世記二章七節、フランシスコ会訳)

 主なる神はこれらの骨にこう言われる、見よ、わたしはあなたがたのうちに息を入れて、あなたがたを生かす。わたしはあなたがたの上に筋を与え、肉を生じさせ、皮でおおい、あなたがたのうちに息を与えて生かす。そこであなたがたはわたしが主であることを悟る。(エゼキエル書三十七章五・六 節、口語訳)

 [序] いのち

 「肉のいのちは血の中に」あり、心臓が力強く拍動して酸素と栄養をたっぷり含んだ清浄な血液を体中に送り届け、廃棄物を回収して全身から戻ってくる。この驚くべき循環系の働きを前号で学んだ。さて、いのちの血液が一分一秒も途切れることなく正常に機能し続けるためには、血液が常に酸素で満たされ、清浄に維持されていなければならない。そのために主が備えられたリンパ系を含む循環系と呼吸器系が、一糸乱れぬ統率下に整備されている精巧な機構を垣間見ることにする。

 [Ⅰ] 血液循環系とリンパ系

 (一) リンパ系 

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余り語られることのないリンパ系について、ここで短く触れておこう。動脈とリンパとを対比して示した図から明らかなように、リンパ系も全身に張り巡らされて、血液と協働して生命を維持する根幹の役割を果たしている。

リンパというと首、脇の下、鼠径部などのリンパ節が腫れた時にその存在に気が付く組織であり、そしてガンでリンパに転移していたら全身にガンがばらまかれていると心配の種になる組織である。しかし、実は全身からリンパ液を回収して静脈に戻すリンパ管系の途中にリンパ節は設けられており、組織内で生じた異物、或いは外から進入した非自己異物を発見し、免疫機能を発動して食い止める関所のような役割を担っている。すなわち、リンパ節に辿り着いたガン細胞や異物を破壊して、血管系から全身に転移するのを防衛する最前線の働きをしているのである。

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 扁桃腺や脾臓、胸腺、骨髄など、リンパ球の循環や産生を行う全ての構造がリンパ組織であり、相互に関連した三つの機能がある。組織から組織液を取り除く働きが一つで、脚がむくんだ時にマッサージをすると治るのは、滞っていたリンパ液の流れが改善されて組織液が除去されるからである。二つ目は吸収された脂肪酸と脂質を乳化して循環系に届ける働き、三つ目は単球や抗体産生細胞などのリンパ球をはじめとする免疫細胞を産生し、成熟させる胸腺の働きである。リンパ系に何らかの異常が起きると、腫脹や他の症状が現れ、また感染症に対する抵抗力を損なうことはよく知られている。図にリンパ毛細管から組織への流れ、そして動脈、静脈毛細血管と入り組んで相互に関わっている様子を示した。

 

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(二)動脈と静脈の接続

全身に張り巡らされている動脈が酸素と栄養を全身に配達した後、酸素濃度が低くなった毛細血管の先端で静脈の毛細血管と繋がって、血液は静脈へと流れ込んでいく。図に示しているように、動脈は心臓の拍動による高い血圧を受けとめることが出来るように、外膜・中膜・内膜からなる特別に強靱な動脈壁で造られている。

hazah-25-005.png一方、動脈と静脈が繋がる末端の毛細血管は、余分なものが付いていない単一層からなる内皮細胞と基底膜のみで出来ている。毛細血管は赤血球の直径とほぼ等しい内径5〜10μmで、円盤状の赤血球は柔軟に形を変えて細い毛細血管をスルリと通り抜けることが出来る。動脈の毛細血管と静脈の毛細血管が網の目のように繋がっている部分を拡大して示す。

 

[Ⅱ] 循環系と呼吸器・肺臓

 (一) 心臓から肺へ、肺から心臓へ

hazah-25-001.jpgいのちの営みの結果生じた二酸化炭素を全身から回収して、図の中央に描かれている心臓の右心房に戻ってきた血液は、通常私たちが目にする少し黒みを帯びた、酸素含量の少ない静脈血である。この静脈血は右心室から肺動脈を通って左右の肺に送られる。肺では血液中の二酸化炭素と酸素のガス交換が行われ、酸素に満たされた新鮮血が心臓の左心房に送り返され、左心室から全身に送り出される(矢印で確認してください)。

 この機能について、前の図では心臓を中心にして説明しているが、肺の働きを中心に据えた次の図は、肺は吸ったり吐いたりする気体の動きを司る器官であることが強調して描かれている。

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二酸化炭素濃度の高い血液が図の上部の血管を通して左右の肺に送り込まれ、肺の無数の袋は膨らんだり萎んだりして、血液から二酸化炭素を除いた後に酸素で満たし、図の下側の血管を通って両肺から心臓に送り返される。


 (二) 肺臓の構造

hazah-25-008.png図は肺の断面図で、全身から心臓へ回収された血液が右肺動脈、左肺動脈を通って肺に送られ、左右両肺でガス交換が行われる。酸素で満たされた血液は、奥に描かれていて多少見えにくいが、左右の肺静脈を通って心臓へ戻される。

・・・動脈・静脈という名称は心臓を中心として名付けられている。強い圧力で心臓から押し出される血液が動脈であり、受け身の血圧で血液が心臓に戻ってくるのが静脈である。よって心臓と肺臓をつなぐ血管では、肺動脈は全身から戻ってきた血液であるから二酸化炭素濃度の高い血液、肺静脈は肺から心臓に戻っていく酸素で満たされた血液である。・・・

 [Ⅲ] 血液を新鮮に維持する

 (一) 息を止める

hazah-25-009.png指先の出血を止めようとして輪ゴムなどで縛ると、暫くすると冷たくなり、やがて青黒くなった経験をした人もいるだろう。血流を止めるということは、新しく酸素が供給されないということで、酸素が供給されないと、その部分が損傷を受け、やがて回復が不可能になってしまう。どのくらい持ちこたえられるかは体の部位によって異なるが、小脳は十三分、そして大脳はわずか八分で回復不可能に、すなわち死んでしまう。

 一方、息を止められる時間は通常遙かに短く、八分も息を止めていることは出来ないのは誰でも経験的に知っている。多くの人が「ギリギリ一分かな?」くらいの認識を持っているだろう。実際、息を止められる時間を計測したところ30秒位の人が一番多く、約80%の人が60秒以下であったという。すなわち、体内の酸素が使い果たされるよりも遙か前に,息を止めていることに堪えられなくなることがわかる。外部からの酸素供給が絶たれた後も、体内に残っている酸素「生理的な貯留酸素」が脳やその他の臓器へ酸素を供給する内呼吸の働きがある。病院などでは自家発電装置が備えられており、停電しても直ちに電気が供給されて、人工透析やその他手術を無事に終えることが出来るのを思い起こしてみれば分かりやすいかも知れない。こうして緊急避難的にエネルギー供給が出来るが、その結果生成した二酸化炭素が体の中に溜まってくる。息を止めると苦しいのは二酸化炭素の濃度が高いためなので、脳から「二酸化炭素を吐き出せ」という指令が出てくるので、まず二酸化炭素を吐き出し、そして酸素を吸うという順序になる。

  (二) いのちの息

呼吸が止まれば生命を維持出来ないのは、酸素を体内に溜めておくことが出来ないためであり、酸素で満たされたいのちの血液が、絶えず全身を流れ続けなければならないのである。肺臓で酸素を充分受け取って心臓に戻ってきた新鮮血の赤血球は95-100%酸素で満たされており、これ以下になると貧血症状を起こす。一方、全身を巡った後に心臓に戻ってきた血液の酸素濃度はどの程度低いのだろうか? ほとんど酸素は含まれていないという錯覚に陥っていないだろうか? ところが、心臓に戻ってきた血液には、酸素はまだ約70%存在しているのであり、かなり高濃度であるという見方も出来るだろう。或いは、他の機能同様、体全体が相当大きな許容範囲を以て統御されているとも考えられる。

 (三) 二酸化炭素と酸素のガス交換

hazah-25-010.png肺でガス交換が順調に行われることによって、血液は常に清浄に維持され、エネルギーを産生する酸素を全身に運ぶことが出来る。したがって、血液のガス交換に支障が生じた場合、脳、心臓、腎臓、肝臓、体内のあらゆる臓器に於いてエネルギーの補給が途絶え、二酸化炭素や老廃物が蓄積し、死に至る。

 呼吸器官は口・喉から気管へ、そして一次、二次、三次気管支へと順次分かれて、数多く細くなって細気管支に至り、最後に肺胞へと広がっている。図に示すように豊かに実ったブドウの房のように、或いは丸い風船が無数に連なっているように外側へ向かう広い接触面積が確保されている。肺胞はほぼ球状(直径0.1~0.2ミリメートル)で、両肺合わせると約7億個にも及ぶ。肺の容積の約85%を占めてガス交換の最前線で働き、胸一杯空気を吸い込んだ時にその表面積は100m2(2LDKマンションの広さ?)にも及ぶ。また、肺胞毛細血管の面積は300m2(テニスコート約262 m2より広い)と言われる。

hazah-25-011.png 肺胞におけるガス交換の仕組みを単純化して図に示す。毛細血管によって運ばれてきた二酸化炭素(CO2)は、肺胞に排出された後、肺胞から酸素が血管に入り、酸素の富んだ血液となって流出する。このガス交換は単純な拡散によるが、肺線維症では膜が厚くなり、また慢性肺気腫では肺胞が破壊されて拡散面積が小さくなるので、両者共に肺拡散能が低下する。又、肺水腫では肺に水が溜まり、図に示したようにガス交換効率が低下する。

 体の全ての機能が万全に働くように体全体が整えられており、少しバランスが崩れた時には正常に戻るホメオスタシス機能が働き、統御機構の下にいのちが護られている。いのちの血液も同様に、血液循環系単独でその機能が維持出来ているのではなく、リンパ系、そして呼吸器系が一体となって働いているので健康が維持されているのであり、これらの統率された制御が崩壊すると健康を損ねるというだけではなく、単純に死に至ることがお分かりだろう。

 [Ⅲ] 結語

 私は、命じられたように預言した。私が預言していると、音がした。なんと、大きなとどろき。すると、骨と骨とが互いにつながった。私が見ていると、なんと、その上に筋がつき、肉が生じ、皮膚がその上をすっかりおおった。しかし、その中に息はなかった。「息に預言せよ。人の子よ。預言してその息に言え。息よ。四方から吹いて来い。この殺された者たちに吹きつけて、彼らを生き返らせよ。」私が命じられたとおりに預言すると、息が彼らの中に入った。そして彼らは生き返り、自分の足で立ち上がった(エゼキエル書 三十七章七~十 節)。

 

 


このシリーズは、マルコーシュ・パブリケーションの発行するキリスト教月刊誌「ハーザー」で連載した内容を転載したものです