27.人である遺伝情報はどこに? 

人である遺伝情報はどこに? 

 神は、種類にしたがって野の獣を、種類にしたがって家畜を、種類にしたがって地のすべてのはうものを造られた。神は人をご自身のかたちとして創造された。神のかたちとして彼を創造し、男と女とに彼らを創造された。神は彼らを祝福された。「生めよ。ふえよ。地を満たせ。(創世記1章25、27、28a節)

 [Ⅰ] 序

 種類(バラミン)にしたがって主が動物を創造なさったことの生物学的内容を、前号ではイヌ科とネコ科、そしてイノシシ科を取り上げて学んだ。主が定められた生物学の大原則「種類の垣根を越えて子どもは出来ない」という遺伝学の基礎は誰でも知っている。今回はその生理的、生化学的機構について少し深く学ぶことにする。

 [Ⅱ] 主が定められた遺伝の法則

(一) 特別なDNA、そして染色体

現在の生物学では、生物の遺伝情報はすべてDNA(大半は核に、ごく僅かがミトコンドリアに存在)に収納されていると考えられており、それ以外には論理的にあり得ないとして排除されている。細胞分裂の時にDNAはヒストン(特別な塩基性タンパク質)に巻き付き、整然と折り畳まれて複雑に、しかし秩序正しく染色体を造り上げる。

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 (二) 「生めよ、増えよ」の遺伝学・最重要因子: DNA

 交配は図のように男(♂)の精子と女(♀)の卵子の染色体とで双方の配偶子が対になって、次世代を生じる。ヒトの場合、染色体数は常染色体22対プラス性染色体のXXまたはYYである。両親の常染色体の配偶子22本ずつ、そして母からはX染色体を受け取り、父からはX染色体を受け取ると女の子、Y染色体を受け取ると男の子になる。このように配偶子が他方の性の対応する配偶子を見つけられなければ受精は成立しない、すなわち子どもは生まれない。ある意味で単純明快な機構である。子どもが受け継ぐ全ての遺伝情報は、父と母、両方に由来する仕組みである。

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hzr27-003.jpg このように、同じ種類同士で同じ種類の子孫が生まれるが、新しい種類の動物を人間が造り出すことは出来ないという厳密な機構が定められている。したがって、第一に染色体数が異なると原則的には交配出来ない。染色体数が同じであり、かつ相同の配偶子を持つ動物同士は、実は元々同じバラミンとして創造された場合は交配可能である。すなわち、創造主が定められた本質的な種類(バラミン)の限界を超えて変化しないが、その種類の範囲内において変化する力があるように創造されたのである。こうして、子孫を残す能力が保たれているのである。前回で紹介したように、イヌとオオカミ、ヒョウ属、ブタとイノシシ等、同じバラミン内で多少変異してはいるが、それぞれ染色体数は同じであり交配が可能なのである。

 (三)  交配出来ない理由

① 染色体数が異なる

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チンパンジーの染色体数は48本、ニホンザルは42本であり、両者の外見は似ているが子どもは出来ない。染色体数の一例を表に示す。

② 交配するために染色体数が同じであることは必要条件ではあるが、十分条件ではない。染色体数は同じでも、染色体の長さが異なる

③ 染色体数は同じで、長さも同じでも、構造が異なる。漫画的に示したように、雌雄の染色体の配偶子が結合するためには、染色体数が同じであっても相同染色体の長さが異なったり、構造が異なったりすると、結合することが出来ない。

 

[Ⅲ] 進化論的に人と近縁とされている霊長目

(一) 霊長目とは? 

進化論的分類では、霊長目はヒトといわゆるサルが一括されており、実に200種以上に細分されている。サルは、鼻が曲がっているか真っ直ぐか、広いか狭いか・・ちなみにヒトは狭鼻類に分類され、オナガザル、類人猿と一緒にされているために、類人猿の一つチンパンジーと混線させられている所以でもある。その他、手が長い(テナガザル)、尾が長い(オナガザル)、中南米に棲息する新世界ザル等々、外見等で様々に分類されている。

 (二) 霊長目の染色体数

hzr27-005.jpg 霊長目、いわゆる猿の染色体数の一覧表を見ると驚くほどにバラバラであり、これらの種類の間には、遺伝的な類似性を求めることは出来ない。同じオナガザル類の染色体数が様々であり、テナガザルも同様に様々であり、これらが遺伝的に相互に無関係であることは明らかである。 

ちなみに、人間は罪によって助長された偏見で「人種」などという言葉を造って肉体的、武力的な力による社会的差別を生み出したが、ヒトの染色体数はすべての人で22対プラス性染色体、XXまたはXYで、総計46本である。(時には、染色体数が多い人がいるが、これはいわゆる人種や民族とは関係のない病理現象である。)

 

[Ⅳ] ゲノム分析

(一) ヒトゲノム分析:遺伝学の迷走

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 人類は技術の進歩によって、DNAを詳細に解析できるようになってゲノム分析は急速に進展した。図のヒト・カリオタイプは、染色体がそれぞれ対として示されており、性染色体はXY(♂)とXX(♀)の両方を示したものであり、ゲノムはこの半分である。

 当初の目的は、ヒトをヒトたらしめている本質の情報がDNAのどこに、どのように組み込まれているかを探求することが念頭のどこかにあっただろう。しかし、「どのようなタンパク質を生合成するか」という情報を担っている部分、簡単に判明する遺伝子情報に目を奪われてしまった。「この塩基配列はヘモグロビンを合成する配列」、「この配列はインシュリン合成の配列」と、塩基配列をアミノ酸配列に翻訳して理解し続けた。そして該当するタンパク質が見つからず、役割を理解出来ない部分を不要な塩基配列「ゴミ」であると決めつけた。臓器をただの部品と見なす世界観に立ってゲノム分析を行った結果、「これもゴミ、あれもゴミ」と、ゴミが九十%以上になるまで分析し続け、遺伝情報を担うDNAはゴミだらけ?みたいな「科学研究の結果」が出てしまった。そして、タンパク質合成に関する情報だけを担っているかのごときゲノムに成り果ててしまったのである。

 ゲノムの約3%に相当する「タンパク質の暗号化(コード)された遺伝子」の領域だけが分かったに過ぎなかった。科学者はゴミを拾い上げて、一応図のように分類して名前を付けたが、それぞれの部分がどのような機能を果たしているのかは不明である。

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(二) ヒトとチンパンジーのゲノムの比較

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ヒトとチンパンジーのゲノムは、最初に報告されたのは、表に示しているように非常に僅かしか異ならず、99% 近く同一だという結果で、進化の過程が証明されたと進化論者は喜んだ。しかし、詳細な研究が進み、染色体の同一性は平均70%程度に減少している。さらに、ゲノムのコードされた領域以外の重要な点は類似していないことが少しずつ明確になってきつつある。 

 さらに、ヒトとチンパンジーの違いを決定付けているのはDNAの変異の「数」ではなく「位置」であり、挿入や欠失は、非コードDNA (タンパク質合成に関与している遺伝子以外の領域)に多く見られる。非コードDNA の中には、遺伝子の発現調節に重要な機能を果たす部分があり、ゴミDNAと呼ばれてきた部分は、生命の秘密を解くカギを握っているらしい。

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[Ⅴ] 3%の遺伝子領域

(一) ゲノム分析で理解出来たこと

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ゲノム分析で判明したことはゲノムの三%以下に該当するタンパク質合成がコードされている遺伝子情報である。この領域の約四分の三については、対応するタンパク質が特定されている。遺伝子の塩基配列がどのアミノ酸に対応して合成されるかについては、分子レベルで解明されているのである。

 (二) 細胞~驚くべき組み立て工場~

DNAの中に書き込まれている高度に秩序化された設計情報を読み取り、タンパク質にまで合成する機構が、細胞の中の小器官リボソームに組み込まれている。①DNAの暗号化された情報が解読され、②情報をコピーされた伝令RNAは核を出て組み立て工場であるリボソームへ入り、③運搬RNAは受け取った情報通りに、部品となるアミノ酸を次々と順番通りに選んで運んでくる。④つなげられたアミノ酸の長い鎖は,細胞内に存在する別の装置で立体構造に折り畳まれてタンパク質合成は完成し,機能するようになる。この時,情報が間違っていたり、読み違えがあるとチェックされ,分解されてリサイクルされる。

(三) 鎌状赤血球症

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 赤血球に結合して酸素を運ぶヘモグロビンは、イラストのように二種のサブユニットαとβの二つずつから構成されており、アミノ酸五七四残基から構成されている。赤血球はヘモグロビンが正常だと円盤状であるが、たった一つが異なっていると写真のように鎌状になってしまい、酸素を結合・運搬する機能を失ってしまい、重篤な貧血症を起こす。

 鎌状赤血球症では、11番染色体にあるβ鎖の六番目のアミノ酸のコードが、一箇所だけ異なっており、それが転写された伝令RNAでも一箇所の変異となり、アミノ酸に翻訳された場合に、正常ヘモグロビンではグルタミン酸(酸性アミノ酸)であるところが、脂溶性アミノ酸のバリンに変異する。この一つのアミノ酸の性質の大きな違いのために、重篤な貧血症になるのである。

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[] いのちの本質の情報

このように、ゲノムの2~3%の遺伝子領域の残りの四分の一も完全に解明される日も遠くはないだろう。しかし、ゲノムの最も重要な本質的な機能・それぞれの生物の特性、すなわち人が人であり、イヌはイヌ、そして人々を惑わすために悪用されているチンパンジーはチンパンジーとなる情報、種類を定める情報が、「どのような構造」として、ゲノムの「どの位置に」、どのように配置されているのかは目下完全に不明である。

人類が喉から手が出るほど欲しがっているこの情報を、主がいつ、どのようにしてお与えになるのか、あるいは永遠にお与えにならないのかさえ、人類は全く知らない。

 

結語

知恵を授けるのは主。主の口は知識と英知を与える。箴言 2章6節 

わたしは、あなたがたに悟りを与え、行くべき道を教えよう。わたしはあなたがたに目を留めて、助言を与えよう (詩篇32篇8節)


このシリーズは、マルコーシュ・パブリケーションの発行するキリスト教月刊誌「ハーザー」で2014年2月から連載した内容を転載したものです