32.地球に生きる悪しき生き物

あなたが、妻の声に聞き従い、食べてはならないとわたしが命じておいた木から食べたので、土地は、あなたのゆえにのろわれてしまった。あなたは、一生、苦しんで食を得なければならない。(創世記三章十七節)

 [Ⅰ]

主は創造の工程ごとに「よし」と確認し、そして最後にお造りになったすべてのものを見て、「非常に良かった」と総括なさった。全世界は動物も人もすべてが「非常に良かった」状態から始まったのである。ところが、今世界を見渡すと、完璧に造られたはずの人も動物たちも植物も、「良い」状態からはほど遠い様相を呈している。その中で体内に毒を持っている動植物や、逆に人間に役立っている薬草などを幾つか取り上げてご紹介する。

[Ⅱ] 危険がよく知られている毒を持つ動物

(一) 水中の動物

*フグ

毒を持っている海の生き物の中で、日本で筆頭に有名なのは、恐らくフグだろう。非常に美味しいが猛毒を持っており、調理法を間違うと命を落とす危険な食べ物であるということは、日本人なら知っている。フグのハラワタは多くの食通をうならせる美味であるようで、「フグは食いたし命は惜しし」と、命の危険を冒してまで食べたいようである。

歌舞伎役者で人間国宝の八代目坂東三津五郎が、1975年、トラフグの肝を食べて中毒死して社会を騒がせたが、フグの毒の特異療法は未だに開発されておらず、人工呼吸器をつないで神経毒であるテトロドトキシンが尿と共に排出しきるのを待つしかない。卵巣や肝臓を食べなければ大丈夫であるとか、養殖のフグは毒を持っていないとか中途半端な情報が民間で噂になっているが正しくはないので、素人の調理は危険である。

徳川幕府において、当主がフグ毒で死んだ場合には「主家に捧げなければならない命を、己の食い意地で落とした輩」として、家名断絶等の厳しい処罰が下されたという。命を捧げるという忠義心を要求され、同じ人間の主人にさえ多くの武士はそれを成し遂げたのが日本魂である。「命を誰に捧げるか」という点において使途パウロの生き様が思い起こされ、キリスト者として身の引き締まる思いである。

もし生きるなら、主のために生き、もし死ぬなら、主のために死ぬのです。ですから、生きるにしても、死ぬにしても、私たちは主のものです。(ロマ書14・8)

 *クラゲ

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 昔は海辺近くに住む人々は「クラゲに刺されると怖い」とよく知っていた。地球上で最も強い毒性を持つ恐ろしい殺人クラゲがオーストラリアの海には生息している(注意の看板)。毒の成分は高分子タンパク質から成る神経毒・溶血毒・皮膚壊死毒で、刺されると耐え難い激痛を感じ、刺傷箇所の壊死・視力低下・呼吸困難・心停止等の症状が現れ1~10分程で死に至る。              

 

 (二) 地上に生きるもの

*身近にいる動物

スズメバチの被害は毎年どこかで報告され、恐ろしがられている。近年外国からやってきたセアカコケグモも、毎年咬まれる事件が起こっているが重篤者は出ていない。性格はおとなしく、素手で触ったりしなければ咬まれることはないようである。

*マムシやコブラ、サソリやムカデ

私たちの身近にはいなくてもこの地上には毒を持っている動物は非常に多く、見るからに恐ろしげな姿をしており、恐ろしい生き物としての認識は定着しているようである。

*蚊

人類にとってもっとも有害で恐ろしいのは、どこにでもいる小さな蚊で、吸血する対象は人、哺乳類、鳥類がほとんどである。蚊は皮膚から発散される炭酸ガスを感知して近寄ってきて、皮膚を突き刺し、タンパク質などの生理活性物質を含む唾液を注入した後に吸血を行う。この唾液が人体にアレルギー反応を引き起こし、痒みを生じる。 

 蚊によって媒介される病気による死者は一年間に75万人にも及び、「地球上でもっとも多く人類を殺害する生物」である。ちなみに二位は人間自身(47万5千人)であり、人類は自分の手で自身を滅ぼしているのである。マラリア、フィラリア、黄熱病、脳炎など各種の病原体を蚊は媒介する。

 

[Ⅲ] 毒を持つが知られていない動物

(三) 水中に生きるもの            

*ミノカサゴ(蓑笠子)              

 何本もの長く色鮮やかな鰭をヒラヒラとなびかせて優雅に泳ぐ様子とは対照的に攻撃的な魚で、水中撮影などでしつこく追い回すと激昂し向かってくることがある。さらに、美しい背鰭を中心に毒を持ち、刺された場合、激痛を伴って患部が腫脹、人によってはめまい・吐き気を起こすこともある。

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*マウイイワスナギンチャク

イソギンチャクの仲間であるマウイイワスナギンチャクの毒は神経毒のパリトキシンで、心臓と心筋、肺の血管を急速に収縮させ、赤血球を破壊するため、生物は窒息したように死亡する。世界中の生物が持つ毒の中で最強で、毒物の代表として知られている青酸カリの八千倍、フグ毒テトロドトキシンの60倍の猛毒である。

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 (四) 地上に生きるもの

*ツェツェバエ                     

一般に抱くハエの概念には合致せず雌雄共に吸血し、血液を栄養源として生きる。アフリカトリパノソーマ症(ヒトのアフリカ睡眠病)の病原体となるトリパノソーマを媒介する。

*アメリカドクトカゲ

マリコバ族などの原住民の間では、獲物や外敵に毒息を吹きかけ殺す怪物として恐れられていた。毒蛇と同じような毒牙で、何度も咬み、毒を染み込ませる。

 

[] 毒を持つ植物

(五) 毒草だと知られているもの

*トリカブト

ドクウツギ、ドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされ、紫色、白、黄色、ピンク色など美しい花をつけるので毒草だと知らされると驚く。根に多く含まれる主な毒成分はジテルペン系アルカロイドのアコニチンで、食べると嘔吐・呼吸困難、臓器不全などから死に至ることもある。皮膚や粘膜からも吸収され、経口摂取後数十秒で死亡する即効性がある。半数致死量は0.2~1グラム。トリカブトによる死因は、心室細動ないし心停止である。

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*ドクゼリ

春先の葉の形状が食用のセリとよく似ており、生育環境も共通しているため、若葉をセリと間違って摘み、中毒する者が後を絶たない。ただし、葉や茎にセリ特有の香気がないなど、区別は比較的容易である。中毒症状は痙攣、呼吸困難、嘔吐、下痢、腹痛、眩暈、意識障害などで、5g以上の摂取で死に至る場合もある。ソクラテスの毒殺刑に使われたのはドクニンジンであり、ドクゼリではない。

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*キノコ類

キノコは植物ではなく菌類であるが、便宜上ここで少し触れておく。シイタケ、エノキタケ等々、様々なキノコが健康食品として非常によく食べられている一方で、毒キノコも数多く存在し、中毒する人は後を絶たない。「縦に裂けるキノコは食べられる」「毒キノコは色が派手で、地味な色で匂いの良いキノコは食べられる」等々民間で囁かれる毒キノコの見分け方は何の根拠もない迷信であり、毒キノコの確実な見分け方は無いようである。あざやかな深紅の傘に白いイボがついたベニドクタケは見るからに毒々しいと感じてしまうが、猛毒キノコ御三家と称されるドクツルタケ、シロタマゴテングタケやタマゴテングタケは、いずれも地味なキノコである。

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 (六) 一般には知られていないもの

*水仙や彼岸花にも毒、そして・・・

水仙、彼岸花の毒までは知っている人はいても、数多くの美しい花に毒があると知るとびっくりするかも知れない。毒の種類は異なり含量は異なるが、スズラン、アネモネ、キンポウゲ、シャクナゲ、アジサイ、オシロイバナ、福寿草、ヒヤシンス、チューリップ、アマリリス、シクラメン、ポインセチア、朝顔、スイートピー、エニシダなど、うかつに食べると一大事が起こる植物は多数存在する。

 

[] 薬草・生薬

昔から、人類は野や山に自生する各種の植物が薬になることを発見し、漢方という分野を確立した。薬になるということは体内で様々な薬理作用を発揮するということで、使い方を間違うと「毒にもなる」ということである。二十世紀には漢方は西洋医学に押しやられて忘れられていたが、昨今見直されている分野である。ただ、西洋医学とは基本的な哲学が異なる上、数多くの生薬に関する知識を総合的に理解する知恵がないと、効果が出ないどころか副作用に苦しむことにもなる。

 

[Ⅵ] 聖書に書かれている薬草

*没薬(もつやく)

 聖書には毒を持つ動物や毒草と共に、幾つかの薬草が記載されているが、有名な一つは没薬だろう。東方の三博士はお生まれになったイエス・キリストを拝んで、「黄金、乳香、没薬を贈り物としてささげた。(マタイ2・11)」。鎮静・鎮痛作用のある「没薬を混ぜたぶどう酒を十字架上のイエスに与えようとしたが、イエスはお飲みにならなかった。(マルコ15:23)」。また香料と防腐作用のある没薬が埋葬に際して用いられた(ヨハネ19・39-40)

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*サフラン・菖蒲・アロエ箴言7・17、雅歌 4・14

サフランは生薬としては番紅花と呼ばれ、鎮静、鎮痛、通経作用がある。キダチアロエは、昔から俗に「医者いらず」と言われてきたものであり、葉肉の内服は健胃効果があるとされている。

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*ナルドの香油

オミナエシ科の芳香のある植物カンショウ(甘松) の根や幹から、快い香りのする高価なナルドの油は作られた。「マリヤは香油をイエスの足に塗り、髪の毛でイエスの足をぬぐった。(ヨハネ12・3)         

*ニガヨモギ 

葉、枝を健胃薬、駆虫薬として用い、干したものを袋に詰め衣類の防虫剤として使う。一度に多量摂取すると嘔吐、神経麻痺などの副作用が出る。聖書では、苦よもぎは間違った悪、苦々しい毒として書かれており「公義を苦よもぎに変え、正義を地に投げ捨てている(アモス 5・7)」と記載されている(箴言 5・4、6・12)。

 

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[Ⅶ] すべての罪を洗う十字架

 動物も人もすべてが非常に善い状態から始まった、すなわち動物にも植物にも毒などという善くないものは一切含まれていなかった。では、アダムとエバの罪の結果、何の関係も無いはずの他の動物や、まして植物が、何故毒を含有することになったのだろうか? 地球の管理者として全権を主に委ねられたアダムの造反の罪は、全地球、土も全存在への呪いとなって及んだ。こうして、動物の命への呪いは、動物や植物の体内で毒が造られる大きな呪いとなって世界に及ぶことになったのである。

だが、主のご計画は愛と祝福に満ちあふれていた。イエス・キリストはすべての罪を一身に引き受けて拭い去り、動物も植物も清められ、人はキリストを信じることにより罪が赦され、聖い者とされたのである。諸々の罪の一切合切を無かったこととして、本人は自分のしでかしたことを苦々しく覚えていても「主は忘れてくださる」のである。この信じられない恵みの愛をしっかり噛みしめようではないか。

「このわたしは、わたし自身のためにあなたのそむきの罪をぬぐい去り、もうあなたの罪を思い出さない。」(イザヤ書四十三章二十五節)

「わたしは彼らの咎を赦し、彼らの罪を二度と思い出さないからだ。」(エレミヤ書三十一章三十四節)


このシリーズは、マルコーシュ・パブリケーションの発行するキリスト教月刊誌「ハーザー」に連載した内容を転載したものです