化石がどのようにして出来るのかを考える前に、化石とはどういうものであるかについて説明しましょう。
化石とは、(1)過去の生物の遺骸(遺体)や生命・生命活動・生活の痕跡が残されているものを言い、それが(2)石化しているか否かは関係ありません。
[2]化石の出来る条件
生物物質の特性
化石が出来るためには、遺骸や生命活動の痕跡がそのまま保存される必要がある。
「地層と化石」大森昌衛監修 地学団体研究会編より
野原や山や、水の中で死んだ昆虫や野の動物、あるいは魚でも、その死骸や痕跡は、その場に放置されると酸素や微生物、あるいは化学物質によって破壊されて消滅してしまいます。例えば、魚の化石の出来る過程をイラストの左側のように従来説明されていましたが、これはあり得ないことです。魚が死んで放置されると、イラストの右側のように他の魚やバクテリアなどに食べられたり分解したりしてバラバラになり、土に帰ります。ですから、化石になることはありません。
例えば、イラストの赤い魚が悠々と泳いでいます。ところが洪水などの土砂、あるいは噴火による火山灰などの堆積物が突如として襲ってきて、高スピードで泳ぐことが出来る魚でも、このような勢いから逃げ切ることが出来ません。こうして急激に生き埋めにされると、空気、魚の死体を腐食する他の動物やバクテリアなどから完全に遮断されます。特に、堆積物が膨大な量で圧力や熱も加われば、更に化石生成に好適な条件になります。堆積物中に急速に埋められた生物の場合、体の組織成分は埋められた周囲の土砂に含まれている鉱物に化学的に置き換えられていきます。たとえば骨では、骨質部分と骨髄部分が異なる鉱物と置き換えられます。
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大洪水や大噴火などの天変地異は、人や生物にとっては生死に関わる恐ろしい災害ですが、そういうときに化石が生成することが多いのです。歴史的に有名な例は、イタリアのポンペイで西暦79年に起こったヴェスヴィオ火山の噴火で、火山灰が降り注ぎ、翌日噴火末期に火砕流が発生し、ポンペイ市は一瞬にして完全に地中に埋まって壊滅してしまいました。
逃げ遅れた人や犬などが火山灰に埋められ、その後、火山灰が固まり、その中の死骸の跡が空洞としてきれいに残っていました。考古学者たちはここに石膏を流し込み、逃げまどうポンペイ市民が死んだときの形を再現しました。顔までは再現できなかったようですが、恐怖の表情がはっきり分かるものもあり、また、母親が子供を覆い隠し、襲い来る火砕流から子供だけでも守ろうとした様子も、飼われていた犬がもだえ苦しむ様子も生々しく再現されています。
一瞬にして5 メートルの深さに町全体を飲み込んだ火砕流が、当時の人々の生活をそのままの状態で保存しました。地中から次々と現れるローマ時代の遺品の美しさに世界は驚愕しましたが、その美しさの秘密は実は火砕流堆積物にありました。火山灰を主体とする火砕流堆積物には乾燥剤として用いられるシリカゲルに似た成分が含まれ、湿気を吸収しました。この火山灰が町全体を隙間なく埋め尽くしたため、壁画や美術品の劣化が最小限に食い止められたのでした。
十八世紀中旬から始められた発掘作業は今も続けられており、遺跡はユネスコの世界遺産に登録されています。